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カシム追悼4・空蒼く、されど心は

カシム追悼4話目でっす。
今日は些か余裕ありめに出せました。なぜなら短いからだッ!
まぁ相変わらず薄暗いカンジの話ですが。
アリババくんしか出ませんが。
よければお進みくださいな。

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カシム追悼4・空蒼く、されど心は


 船が港を出て、バルバッドが遠くなり、小さくなり、水平線の向こうに消えていくのを、アリババはずっと見ていた。
 いつもなら心を躍らせているであろう水上の旅も、楽しむような心の余裕がない。
 皆アリババの心情を察し気遣ってくれているらしく、声をかけられるような事もなく。
 そんな自分を情けなく思いながらも、アリババは船の縁から動けなかった。

 本当は、せめて表面上だけでも平気なふりで取り繕わなければいけないのだと分かっているのだけれど。
 お世話になる上に気を遣わせてしまうなんて、と。
 そう思うのに、沈んでしまった心は、アリババにもどうにも出来なかった。
 自分の心のはずなのに、まるで水の向こうにでもあるかのように遠くて、どうにも出来ない。

 それでも、直後の頃に比べれば少しずつマシになって来てはいるのだけれど。
 だが、やはりいざバルバッドを離れるという現実を突き付けられると、落ち着いてもいられなくなってしまったようだった。
 ……違う、俺は冷静なんかじゃない。もう、ずっとずっと混乱してるんだ。
 喪失への哀しみも、何も出来なかった自分への苛立ちも、前を向かなければという焦りも、様々な感情が飽和状態になっていて、どれも選べずに動けない。
 何とかしなければ、と思えば思うほどに、感情で雁字搦めにされて、裏腹にアリババはどんな色も乗せられていない無表情で水平線を見つめていた。
 バルバッドが見えなくなってからも、ずっと。

 波は穏やかで、風もまた然り。
 絶好の船旅日和、といえるだろう。
 そういえば船に乗るのは随分と久しぶりの事だった。
 王宮で暮らしていた頃、何度か乗って以来だ。
 宝物庫襲撃の一件後に向かったのは砂漠方面だったし、バルバッドに戻ってからは色々あって海をゆっくり眺めるような事もなかった。

 陸を離れ、視界に広がるのは海の蒼と空の青だけだ。
 二つは同じ「あお」なのに、決して交わることなく、けれど水平にずっと続いている。
 きれいだな、と素直に思った。
 続いていく空と海に挟まれて、自分の小ささを、そして世界の広さを思う。
 空は快晴で、けれど心はちっとも晴れてなどいない。
 そんな矮小さに嫌気がさしながら、ぐるぐると思考が巡る。

 この、続いていく同じ空の下に、バルバッドはあるのに。
 何故だろう、物理的な距離だけではなく、ひどく遠くに感じられてならなかった。
 残してきた色々なことへの心残りもあるだろうし、いつ戻れるとも知れない所為もあるのだろう。
 出発前に、霧の団の面子と交わした約束は忘れていない。忘れるつもりもない。
 いつか戻って来いよ、と。旅立つ家族へ向けられたかのような言葉は、思い返すだけでアリババの心に暖かな灯をくれる。
 それなのに、何故だろう。
 届かない距離に来ただけで、胸中にただ不安が広がる。
 本当に戻れるのか、彼らは無事でいられるのか、あの場所でまだ出来ることがあったのではないか。
 考えても詮無いことばかりが、頭の中をぐるぐるとぐるぐると。

「……って……」

 顔を顰めたのは、新たに開けたピアス穴がぴりりと痛んだからだ。
 先日開けたばかりの穴は、場所が場所だからか未だに思い出したように疼くことがある。
 痛み自体は段々と薄れつつあるし、その間隔も長くなってきているからいずれ痛まなくなるのだろう。
 反射的に耳を押さえたアリババは、指に触れた感触に思わず顔を歪めていた。
 本当は笑おうとしたのだけれど、上手くいかなくて。
 だって、そうだろう。狙い澄ましたみたいに今痛むなんて、まるで叱咤されたみたいじゃないか。

「……分かってるよ」

 あいつらは、バルバッドは、きっと大丈夫。
 そう信じるしかないし、そう信じてる。
 信じると決めて出て来たのに、疑うな、と。
 そう言われているような気がした。
 湧き上がる不安は、きっとこれから先も消えないのだろう。
 何度でも何度でも心の底から浮かんできて、アリババを苛むのだろう。
 それでも、信じると決めた。
 遠く離れた場所で、それでも見守っていくと、離れた場所だからこそ出来ることをやろうと、そう決めて来た。

「……分かってる」

 呟く声が震えていることには、自分でも気付いていた。
 けれど、唇を噛んで涙を零すことだけは堪えた。
 こんな明るい空の下じゃ、涙を隠すことなんて出来ないから。
 痛む耳を押さえて、アリババは俯いた。
 耳の痛みは、直に治まる。それはそう遠くない未来の事だ。
 ならば、混乱し痛む心は、いつまで続くだろう。
 哀しみに、空虚さに、押し潰されそうなこの心は、いつになったら。

 空の青が眩しい。
 海に反射する光が目に痛い。
 言い訳のようにそんな事を考えて、アリババは目を伏せた。

fimg_1303397053.png




END


海と空のコントラストは、キレイだけど物悲しかったりもするし、だけど雄大だったりもする。
多分見る人の心を写すんだろうなあ、という話。
これがこの後88夜頃にはこんなん(小話リンク)になるんだぜ……
マジでアリババくんは天使でいいと思う。
 

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