[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
傾城手折りし花の名は
彼に仕事を頼んだ娼妓たちは、こぞって褒めたたえた。
繊細ながらも艶やかな意匠は勿論のこと、その仕事ぶりや人柄に惚れ込む者が多く、その名は口伝てに広まっていた。
馴染みの娼妓に彼の彫った刺青を見せてもらった事がある。
肩の辺りに密やかに咲いた牡丹は美しく、彼女の魅力を十二分に引き出していた。
卓越した見事な仕事に感嘆し、彫り手はどんな男だろうと思った事はある。
だが、その本人が。
「仕事を果たしに参りました、アリババと申します」
少年と青年の間くらいの年だろう、アリババと名乗った彫師は頭を下げる。
仕事の善し悪しは年齢ではない。だが、それを知っていて尚驚きを感じる程に、彼は年若かった。
何より戸惑いを感じたのは、彼が彫師を生業としているとは思えない程に愛想よく笑っていたことにだ。
彼の彫物は、美しかった。だが、その中にはどこか退廃的な色も確かに存在していた。
愛しさと同時に悲哀も掻き立てるような意匠は、どちらかと言えば老成した職人技を思わせるものであり、目の前の人物とはとても結び付かなかった。
猜疑を見抜いたのだろう、アリババはふっと笑み。
「一部の界隈では黒蝶、とも呼ばれております」
言いながら着物の裾を割り、晒された左脚には。
膝のやや下辺りから、足の付根へ向かって大小様々な大きさの黒い蝶が何匹も舞っていた。
「初回には彫りません。どんなに望まれようと」
「知っていますか、刺青は残るんです。どんなに消そうとしても、跡が残る」
「簡単な話です。消したくないと思わせるだけのものを、彫ればいい」
「だから俺は、入れる人と話すんです。その人を理解すれば、彫るべき絵も自然と見えてくるから」
「……色事にも、似てるでしょう?」
「俺は、彫る時は目の前の肌を愛するつもりでやりますから」
膝に彫られた蝶を撫でながら、アリババは目を細めた。
それはまるで、恋人に触れてでもいるかのような表情で。
「簡単な話です。俺をかどわかした男が、彫師を生業としていた、それだけですから」
彼の脚に舞う黒い蝶は、相変わらず美しかった。
鮮やかな色もないただ黒いだけの蝶だが、アリババには何よりそれが相応しいのだと訴えてくるようだった。
「対になっているんです。あいつの右脚には、蜘蛛の刺青がある」
静かな声に、しかし背が冷たくなる。
その男とアリババの関係がどんなものかを示唆するような言葉だった。
素足を絡ませ合う時にだけ浮かび上がる、絵。
蜘蛛と蝶の関係は捕食者とその獲物だ。交わるのではなく、喰らう。
黒い蝶は、その男のアリババへの執着そのものだ。
そしてまた、自らの手でそれを増やしたというアリババの答えであり執着でもある。
美しい蝶が、見知らぬ誰かの手に見えた。実際あれは、アリババに植え付けられ刻み込まれた鎖のようなものだ。
暗闇の中、蜘蛛に手折られる蝶が見えるような、気がした。
遊廓パロにするはずが二転三転して何故か彫師の話になった、元々は無配にするつもりで構想した話。タイトルにだけ遊郭ものの名残があったり(傾城)するのが笑え泣けますね。
視点の人物とアリババくんの相手はわざとぼかしてます。
まぁカシムかジュダルだよ、金沢だから(笑)
彫る時にお互い汗だくになりながらやるんだよ。エロくない? と思ったら妄想止まらなくなりまして。
どうしてこう、ちょっと歪んでるっぽいようなアリババくんばっかり思い付くのか…
いつか書きたいけどいつになるか分からないわ、そもそも書けるのかどうかも不明なので出してみた。ネタとしては好きなので書きたいんだけどねー…他で割といっぱいいっぱい(爆)