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ICOパロ イコ=白龍、ヨルダ=アリババ
泡沫行路
突如としてどこからともなく現れた少年の両耳の上には、大きく存在を主張する角が生えていた。
遠い昔にか、それともつい昨日の事か、同じように角の生えたひとを見た気がする。
それがどんな人だったのかもよく思い出せないのに。確かにそんな気がしていた。
あの巨大な鳥籠に閉じ込められてからのアリババの記憶は、酷く曖昧だ。
城を取りまく霧のように、ぼんやりとしている。
分からないことだらけの記憶の中、それでも理解出来ていることがある。
自分はこの城からは出られないだろうということ。
手を引いてくれる少年を、ここから逃がしてやりたいと思うこと。
「 」
少年の声がする。どうやらアリババを呼んでいるようだった。
彼の言葉はアリババには分からないものだったけれど、差し出された手の意味は充分過ぎるほどに伝わってきた。
まっすぐな眼差しに、重なる手のひらに、彼の心が宿っている。
一緒に、と。
その強さに、抗えなかった。
逃げられないと分かっていて尚、その手を握っていたかった。離したくなかった。
アリババが少年の元へ駆け寄ると、すいと手が差し出される。
それが当然であるように。ずっと以前から、そうして来たかのように。
握った手は、暖かかった。
たった一つこの手のひらだけがあれば、何もかもが大丈夫だと錯覚してしまいそうな程に。
手を引かれ、歩き出す。
アリババは少し泣きたいような気分で、繋いだ手を見下ろした。
ずっとずっとあの鳥籠の中に一人きりだった。孤独でいた事を、淋しいと思っていた事すらも、忘れてしまうほどに。
心の奥深くに追いやり閉じ込めた感情は、けれど消えてしまったわけでは決してなかったのだと、思い知らされた。
暖かい、人の手。鼓膜を揺らす、声。
それらはアリババの心に、ただ染み込んでいくばかりだった。
この一時が例え、泡沫のものであろうとも。
「……離したく、ない、な」
小さな小さな声での呟きは、潮騒に浚われ消えていった。
もし届いた所で、この言葉は彼には通じないのだけれど。
いっそこの身が、泡に紛れて溶けて消えてしまえば。
考えて、アリババは唇の端を歪めるように微笑った。泣きたい気持ちの代わりに、ただそうするしかなかった。
海鳴りは、止むことなく続いていた。
というアレでアリババ視点。
手をつないで歩く、しかも先導が白龍、っていうのがツボでね…!
てゆか原作で放置されてる白龍があまりに不憫で…!!
111夜こそは喋ってくれるかしら。まだ葉王のターンかしら。