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無前のひと(ある意味では)
何やかやと理由をつけて、煌帝国の神官であるジュダルがシンドリアを訪れたのは数日前の事だった。
本人も明言していたがシンドバッドが気に入っているらしいジュダルは、留学ということでこの地にやってきた白龍にもいたく目を掛けているらしい。
二人が揃っている場所、となれば来ないわけがなく。
表向きは白龍のお目付け役、という名目でこの地に留まっていた。
勿論、気まぐれなジュダルの事だ、目付の仕事を全うしているかと言えば全然していないのだが。むしろ白龍の方がジュダルよりも余程しっかりしていた。
アリババはと言えば、裏でアルサーメンが糸を引いていたとは分かっていながら、やはりバルバッドの事を考えると進んで煌帝国の人間と関わり合いになろうとも思えずに。
何より、自身の鍛錬が日々の最優先だった為、何となく彼らとの距離は開いたままだった。
アラジンの方は、マギということもあってか何かとジュダルにちょっかいをかけられたりしていたようだったけれど。
しかしながら。
平穏な日々は、得てして長続きしないものであったりするというのもまた、世の真理である。
寝返りを打ったアリババは、投げ出した指先が何かに当たったことに気付いた。
固くはない、けれど確かな弾力を伝えてくるもの。
枕かとも思ったが、どう考えても固さが違う。それに、感触が布のそれではなかった。
こんなもの寝台の上にあったっけ、と夢現の意識で疑問に思い。
気になりだすとどうにも頭から離れなくなってきてしまった。
何なんだ一体、と心地良い微睡みから意識を浮上させ、目を開ける。
夜明けはまだ遠いらしく、部屋の中は暗い。
ぼんやりとしていた視界が焦点を結び、目の前にあるものを、認識かつ確認した、その瞬間。
アリババは、ぴきんと音を立てそうな勢いで、硬直していた。
指先が触れていたものは、人だった。人の、手だ。
そもそも一人部屋の寝台にアリババ以外の人物がいるだけでおかしな話だというのに、その、相手が。
煌帝国神官、ジュダルだと言うのだから。
アリババが固まってしまったのも、無理はない話だった。
え……なに、なんで?
触れていた手をそろそろと引き、寝入っているらしいジュダルの横顔をまじまじと見やる。
寝返りを打ち横向きになったアリババの隣りで、ごろんと仰向けの体勢で。ジュダルは寝息を立てていた。
普段はどこか人を食ったような笑みばかりを浮かべているが、それがなければ幼くも見える顔立ちなのだと初めて知った。
一瞬性質の悪い冗談か悪戯かとも思ったが、暫し待ってみても動き出す様子はない。本気で寝ているらしい。
いやちょっと待てそれはそれでおかしいだろ。
寝ているからいい悪いではなく、そもそもここはアリババに割り当てられた部屋で、その寝台にジュダルが寝ているという状況はどう考えてもおかしい。
日がなフラフラしているだけにしか見えずとも(そして実際そうでも)、一応の肩書と名目が与えられているジュダルにも、どこにあるかまでは知らないが部屋が宛がわれているはずだ。
アリババが知らないという事は、おそらくこの部屋からは離れた場所に。
それが、何故、どうして、ここで寝ているのか。
寝起きの回らない頭でぐるぐると考えて、とりあえず起こそう、という至極まともな結論に至った。
もそりと体を起こし、寝台の上に座る体勢になる。
気持ち良さそうに寝ている顔を見ると、何だか起こすのが忍びない気分にもなった。だからと言ってこのまま放っておくわけにもいかないと思い直し、その肩に手を掛け、揺さぶる。
「も、もしもーし……?」
何度か揺らしていると、ジュダルが薄く目を開けた。
あまり関わりたくないのに、何故こんなことになっているのだろう。
思いながらも、とにかく起きて部屋に戻ってもらうしかない。
「なあ、部屋、間違ってるけど……」
「……んー……?」
「ちょ、寝るな! だから、ここは俺の部屋だって!」
「眠ぃんだよー……」
ジュダルは寝起きが悪いらしく、話が噛み合わない。
遅い時間帯であることを考慮して、大きな声は出せずに。
そうして何度か噛み合わないやり取りを繰り返し、そろそろ叩き出してもいいだろうか、とアリババが考え出した頃。
ようやく目が覚めたらしいジュダルは、大きく欠伸をしながら緩慢な動作で起き上がって。
「……えーと? 何だっけ?」
「だから! ここは俺の部屋! 自分の部屋で寝ろって言ってんの!」
何度目かになる説明をして、さっさと追い出してしまおうと思っていたのだが。
何故かジュダルは、アリババの言葉を受けても動こうとせずに。
日がな修練で疲れているのに。しっかり寝て体力を回復させたいのに。
頭を抱えたい気分のアリババを余所に、ジュダルは思い至った、とばかりにぱちんと一つ手を叩いた。
「あー、思い出した思い出した。バカ殿んとこ行ったんだけどよ、流石に警戒されてて適当にウロウロしてたらここ来たんだよ」
「……うん、どうでもいいから。俺は寝たいんだけど」
「寝たらいーじゃん。俺も寝るしー」
「だっ、だから何で俺の部屋で寝ようとするんだよ!」
ごろりと寝台に寝転がってしまったジュダルに、流石に焦る。
どうしてこんなに話が通じないんだコイツは。
シンドバッドさんとか煌帝国の人は、どうあしらってたっけ?
思い出そうとするけれど、何だかよく分からない。
眠気と混乱とで頭が上手く働いていないようだった。
もう面倒くさい。
いっそ俺が出てった方が早いんじゃないか、とまで考え出した時だった。
寝転がりアリババに背を向けていたジュダルが、ぽつりと呟くように声を出した。
「白龍も相手してくんねぇし、つまんねえ」
その言い方と内容が。相手をしてもらえなくて拗ねている子供のようにしか、聞こえなかった。
ああ、もう。
俺コイツのことなんか、好きじゃないのに。
けどもう眠いし。疲れてるし。なんか頭も働かないし。
……ガキを放っとくわけにも、いかないし。
たった一言で絆されてしまった自身をバカだともお人好しだとも分かっているけれど。
一人の淋しさを知っているからこそ、放り出せなかった。
きっとジュダルはこちらの名前すら知らないのだと思いながら、それでも。
一つ溜め息を吐き、ジュダルに背を向けるように寝台に横になる。
「……明日も早いし、寝る」
独り言のように呟いた言葉は、ジュダルに届いたのかどうか。
背を向けていたからその顔は見れなかったし、ジュダルからの返事もなかったけれど。
バルバッドを出てからの生活で雑魚寝にも慣れていたアリババは、すぐに眠りに落ちていってしまった。
だから、アリババは知らない。
寝息が聞こえてきてから、ジュダルがもぞりと向きを変えて。
上下する背中を見ながら、ぽつりと。
「……変なヤツ」
そう、どこか楽しげな口調で呟いたことを。
END
【無前】
・それより以前にないこと。空前。
・対抗するもののないこと。不敵。
…って何てジュダルちゃんですか、と思ってのタイトルでした。
まあこの後無意識のうちに(人肌って安心するし)寄り添って寝ちゃうんじゃないかな!
翌朝起こしに来たアラジンと、いなくなってるジュダルを探しに来た(多分煌帝国の人に乞われて)白龍に発見されるんだと思う。
シンドバッドも白龍もジュダルを華麗にスルーできるスキルがあるから、ジュダルに慣れてないアリババくんトコに何やかやでからかいに来るようになればいいよ。
アリババくんに構ってるとアラジンがすっ飛んでくるとなったら余計だよね!
ていうジュダアリフラグを無理矢理立ててみた話。
84夜で色々話が動く前にやっとかないとお蔵入りしちゃうからな!
慌てて書いたんだ!(笑)