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落日に染む記憶
マスルールが奴隷狩りにあったのは、幼い頃の話だ。
家族の事は勿論、住んでいた土地がどんな場所だったのかも殆ど記憶に残っていない程に子供だったから、剣奴としてレームにいた頃もシンドバッドに引き取られてすぐの頃も、ただ漠然とした故郷への憧れに駆られていた。
今にして思えば、あれは郷愁の念などという強い感情ではなかったのだろう。
見たことのない場所への憧れ、皆が当たり前のように持っている家族への憧憬、といった所か。
一度連れて行ってもらったカタルゴの地は広く、どこか胸の奥に懐かしさを呼び起こさせたのは事実だ。
だが、あの場所が自身の安住の地、帰る場所だとは思えなかった。同族が一人も見当たらなかった所為もあるだろうが、何より。
剣奴の身分から解放し、人間として当たり前の生活を教え導いてくれたシンドバッドにこそ、感謝と畏敬の念を抱いていたからなのだと思う。
そうして故郷との決別を果たし、シンドリアに、シンドバッドに自身の力を捧げるのだと決めてからはカタルゴを思い返す事もほとんどなくなっていった。
元々覚えていることなどなかったも同然なのだから、当然と言えば当然の話だ。
そんなマスルールに、かの地を思い出させる存在が現れた。
バルバッドで出会った同族の少女、モルジアナだ。
ファナリスの特徴である赤毛に、常人離れした脚力と身体能力。性別も年齢も違うからかまだ粗削りな身のこなしではあったが、すぐに分かった。
だが、そんな対外的に見てすぐに分かるような特徴だけが判断の材料になったのではない。
マスルール自身何故そう思ったのかはよく分からなかったが、直感的に思ったのだ。
俺は、この少女を知っている、と。
その後バルバッドの騒動が一段落着き、シンドリアに身を寄せることになったモルジアナから強くなる為の手ほどきをして欲しい、と頼まれてから数日経った頃だった。
夢を、見た。
マスルールは夢の中で、カタルゴの地に立っていた。
一度見に行った事があるから、すぐに分かった。
どこまでも続くように見える草原、大きな太陽が沈んでいく地平線、他のどんな土地でも見たことのない動物たちが悠々と歩きまわっている。
『今度さ、俺にきょうだいができるんだ』
不意に、声が響いた。
『父さんは弟だって言うし、母さんは妹だってさ』
位置的に、マスルールのすぐ隣りから喋っているようだった。
まだ変声期前の、子供の声だ。口調から察するに男だろう。
聞いたことのない声のはずなのに、どこか懐かしい。いや、違う。似たような声音を、つい最近どこかで聞いた、そんな気がする。
思い出そうとするけれど、夢の中のせいだからか思考が上手く働かない。
『俺? どっちでもいいけど……多分、母さんの方が当たる気がするな』
笑いを含んだ、どこかくすぐったげな口調で声は言う。
マスルールは声のする方を向きたかったが、視線は眼前に広がる光景に固定されたままで動かせなかった。
『妹だったらさ、お前も守ってくれよ』
頼んだぞマスルール、声はそう言って。それに応えようと口を開きかけたその瞬間、夢が途切れ目が覚めた。
身を起こし、けれど一瞬ここがどこなのか分からなくなる。マスルールの横に寄り添っていた鳥が小さく鳴いて我に返った。
ここはシンドリアだ。
カタルゴの夢を見るなど、ここ数年ではめっきりなかったのに。
夢で聞いた声は、まるで水中の泡か何かのように、意識がしっかりしたと同時に急速に遠のいて行ってしまった。
確かに聞いたはずなのに、もうそれがどんな声をしていたのか、分からない。思い出せない。
もどかしくて、手のひらで髪をぐしゃりと乱した。
覚えていることなんて、一つもないと。
そう思っていたのに。
遠のく声が、胸の深い部分をぎゅっと握りしめたような気がした。
夢だったのか、記憶だったのかさえ分からない。
掴み損ねた夢の端は、未だ自分のどこかに残っているのだろうか。
あれが単なる夢ではなく過去の記憶だったというなら、自分は彼の言葉に何と答えたのだろう。
話していたのは誰だったのだろう。友人だったのだろうか。
はっきりと思い出せるのは沈んでいく夕陽ばかりで。
マスルールは、珍しくふっと息を吐いたのだった。
ズルムッドも白龍も兄弟兄弟言いやがってフラグ立ててるけどさあ…手ブロでは否定してんだけどもどっちなのぉぉ!!
…という気持ちを込めてみました。
モルジアナの実兄(マスルより幾つか年上)とマスルールが従兄弟同士で親友、つまりマスモルも従兄妹! なーんて捏造妄想。
あんまり似てる似てる言われるからさぁ…親戚くらいはあるかなーって…
従兄妹同士は結婚出来るんだよ!
ファナリス幸せになれ部に入りたい。