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バルバッドを離れた後のアリババがチーシャンに辿り着く前に奴隷商人に捕まって売り飛ばされて小金持ってるおっさんとかの愛人状態になって、逃げたくても逃げられないままある時バルバッドに行く事になるけどその頃には何もかもどうでも良くなってる話。
ていうこのあらすじ読めば別に本文読まなくてもいいんじゃね? ってぐらいこの説明だけで終わってる話です。
カシムも出ます。というかこれをカシアリ希望にしたい私は何かズレているとしか以下略。
マギ世界の治安の悪さを考えるとアリババくんが無事でいられたのってすげえ奇跡的なんじゃないの、とは前から思ってたんだよ…カシムを絡ませてるのは単なる趣味だ!(キリッ
蒼穹に落とされた自由は涙を零すか
バルバッドへ行く、そう告げられてもアリババの胸中にはどんな感慨も湧かなかった。
ただいつものように、そうですか分かりました、と頷いただけだ。今のアリババには、否定をすることは勿論自分で何かを考え行動することすら許されていない。
目の前の男の言葉に頷き、望まれたことをこなすだけが今のアリババにとって許された唯一だった。
バルバッド、その土地はアリババにとっては特別な意味を持つもののはずだった。生まれ故郷、そして最後にはひどく苦い思いで逃げるように出て来た地。
だというのに、その名を聞いても、これから向かうのだと言われても、アリババの心は凍てついたかのように動く事はなかった。
あの場所を離れてから、二年の歳月が流れようとしていた。
何もかもが全て、遠い日のことのようだ。スラムでの日々も、王宮での暮らしも。
王宮での日々も大概が自由などなかったが、今の毎日に比べればずっとマシだったのだとどこか懐かしく感じられた。
唐突に王宮に召し上げられた日にもこれ以上の驚きはないと思っていたものだが、まさかその後奴隷に身を窶す事になるなど予測もしていなかった。
自分自身のことながら波乱万丈だよな、とふっと自嘲する。だがすぐに虚しくなって、頭を垂れた。
俯くと、胸の辺りまで長く伸ばされた髪がさらりと肩から落ちてくる。アリババ自身は本当は短い方が楽で好きだ。だが切る事は許されず、いつの間にか長くなっていた。
主人はこの色と感触が気に入っているらしく、よく戯れに触られる。
今夜は寝台に呼ばれるだろうか。二年近く情婦扱いされていれば、いい加減行為に慣れもする。好きも嫌いもない、避けられない雨のようにただ行為を受け容れるだけだった。
求められるままに奉仕し、足を開き、快楽に息を荒げ、乱れる。
最初の頃こそ、不特定多数の相手をするより余程マシなのだと自身に言い聞かせていたし、勿論いつかこの身分から解放されることを望んでいた。
だが、今はもうそんな気力もない。奴隷に人としての尊厳や価値などない、そう教え込まれ叩き込まれた日々はアリババに全ての物事を諦念させていた。
何も変わらない、変えられないのなら。せめて穏やかに過ごしていたい。
それだけが今のアリババを構成する全てだった。
◆
人混みの中でカシムがその色に目を引かれた理由は、明確には説明出来ない類のものだった。
バルバッドは交易が盛んな土地なだけあって、様々な人種が入り混じっている。服装や肌の色は勿論、髪の色もそれぞれだ。
けれどその時は、まるで本能的な部分が反応を示したかのようにカシムの眼差しは一人の人物に吸い寄せられていた。
スラムでこそ殆ど見かけないけれど、商売が盛んなバザールではちらほら見かけたりもする、色。日の光をそのまま集めたかのような、黄金色。
人と人の間をするすると抜けていくその人物は、少し俯きながら歩いている。あまり大きくない上背と薄い肩が、どこか消えそうな儚げな印象を纏わせていた。
何となくその背を追っていたカシムが動きを止めたのは、誰かと肩がぶつかった拍子に横顔が窺えたからだ。
最後に会ってから二年ほどの月日が流れていたが、見間違えるはずがない。あれは、あの顔は。
走る。行き交う人並みの中、幾人かとは肩がぶつかったりもしたが気にならなかった。
何か言われたような気もするが、それはカシムの耳には届かずに。
「っ、おい!」
引き止める為に肩を掴んで振り返らせた。名前を呼ぶ事は出来なかった。
見誤ることなどないと思いながら、それでも尚確信が持てなかった。
「……カシム……」
驚きに目を丸くし、小さく開いた唇が呆然とした体でカシムの名を呼ぶ。
以前より少しだけ低くなったような気もするが、ほぼ記憶と変わりのない声。
やはり、アリババだった。
確信を得たその上でも、カシムはアリババの名を口にすることが出来なかった。
アリババの首に、何者かに隷属している証である太い首輪が填められているのを目にしたからだ。
カシムの眼差しの先に何があるかなどすぐに気付いたのだろう、アリババはふっと首を傾けて微笑した。
「少し、話そうか」
向けられたアリババの笑顔は、カシムの知っていたものではなく。
諦めと憂いを含んだどこか達観したような表情は、見る者の胸の裡をかき乱すような色を乗せていた。