それをきっと「 」と呼ぶ
特に祝い事があったわけでも、増していい事があったわけでも何でもない。
ただ何となく店の前を通りかかって、これまた何となく気が向いた、だから買って来た。それだけの話だ。
帰宅して差し出したケーキの箱に、しかしアリババは大袈裟な程に目を輝かせて喜んだ。
あまりに嬉しそうな様子を見て、おまえ幾つだ、と思いつつも喜ばれれば悪い気はしない。
「俺レアチーズがいい!」
二つのケーキを見比べ散々唸りながら迷っていたアリババが言った。
ぴっと伸ばされた指が示したのは、ブルーベリーの乗ったレアチーズケーキだった。
宣言したくせに目線でいい? と問うてくるのに思わず苦笑する。
「好きな方食えばいいだろ」
そもそも買って来たとは言え、別段物凄く食べたかった、というわけでもないのだ。
何となく店に入って、何となく適当に選んできたものだからどちらであろうと構わない。
カシムの返答をどう思ったのか、アリババは一瞬黙り込んで。
その目線が二つのケーキの上を行き来し、またカシムの目に戻って来る。
「……やっぱ半分ずつにしよっぜ」
「どっちも食いたいだけだろお前」
「んだよぉ、両方味わえた方がいいだろ。お得感あって」
「意味分かんねえよ」
言いながらもアリババはナイフでケーキを切り分けていく。
ショートケーキの食べ方としてはどうなのかと思うが、アリババがやけに嬉しそうなので好きにさせておくことにした。
「ほい」
「ん」
半分ずつになったケーキが皿に一つずつ。
並んだ白と黒はやや不格好ではあったが、食べる分には問題ないだろう。
「……へへ」
「何笑ってんだか」
「いーだろ別に。っつかカシムだって笑ってんじゃん」
「笑ってねえよ」
「笑ってるって」
「しつけえ」
軽口を叩き合いながら、ケーキを口に運ぶ。
甘い。
同じようにカシムの前でケーキを食べたアリババが、ふっと目を細めた。
こんな日も、悪くはない。
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