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「かーしらー。いるかー?」
呼ばれて、アリババは自室として宛がわれている部屋から顔を出した。
チーシャンからバルバッドに戻り、カシムと再会したかと思えばあれよあれよと言う間に霧の団の頭に祀り上げられていて。
頭、とは言え霧の団はカシムが立ち上げたものだ。
実際は名ばかりのものになるのだろうな、と何となくは察していた。
だが、そんな自分を呼ぶ声は、友好的というかまるでご近所さんに接するかのような雰囲気で。
「……? なんだろ」
声のする方、皆が何となく溜まっている場所へ行くと、一人の男がいた。
霧の団の一人として紹介された中にあった顔だった。
生憎と人数が多すぎて名前まできっちり紹介されたのは幹部とその周囲だけだったので、名前は分からなかった。
だが男は、アリババの姿を認めるとひらひらと手を振り、笑顔で近づいてきて。
「ほいこれ、差し入れ」
「え、えっ?」
「うちのかみさんが作った豆料理。うんめえぞー」
「は、はあ……」
ひょいと差し出された皿を、勢いで受け取ってしまった。
いやまあ差し入れは正直嬉しいしありがたいのだが、何故自分に?
覗きこんだ皿の中には、確かに言葉通り美味しそうな家庭料理が乗せられていた。
アリババの困惑を分かったのか否か、男はふっと肩を竦めて。
「どっから戻ってきたかは知んねえが、これ食ってゆっくり休みなって。腹減ってっとそれだけで気が滅入るしな」
「あ、ありがとう」
「いーっていーって。霧の団にいるからにゃ、俺たちゃみんな家族みてーなもんだからさ」
笑う男にぽんぽんと頭を撫でられ、アリババはつられて少しはにかんだ。
自分より、いやおそらくはカシムよりも幾許か年上なのだろう男は、その人なっつこい笑顔がとてつもなく心を安堵させるものだった。
半分だけ血の繋がった兄たちよりも、ずっとずっと、近しい距離を感じるのは、自分がスラムの生まれ育ちだからだろうか。
いや、違う。俺は。
「おいおい、お前またかみさん自慢してんのかー?」
「悔しかったらお前も嫁さん貰うんだなー」
「ったくやってらんねえよなー、独り身への当てつけかっつの」
「いいよなー、料理上手の嫁さん、俺も欲しいわー」
アリババと男のやり取りに気付いたのだろう幾人かが、パラパラと集まってくる。
かわされる会話はどれも親しげで、アリババはまるで自分が以前からずっとこの場所にいたかのような気にさえなっていた。
そうだ、俺は。
カシムが、こいつらを、霧の団を、家族だと言うなら、思うなら、俺も。
俺も皆を兄弟だと思う、思える、そういう、ことなのか。
「あ! あの!」
「ん?」
「これ、ありがとう! 腹減ってたから、嬉しいよ」
俺は上手く笑えただろうか。
泣きたいぐらいの気持ちでいることを悟らせず、ちゃんと笑えただろうか。
心配になって、けれど差し入れを持ってきてくれた男が笑みを向けてくれたから、もうどっちでもいいと思えた。
「コイツの嫁自慢はともかく、味は保証するぜ、うん」
「お? なんだ僻みか? ん?」
「うわ、うぜえー」
繰り広げられるやり取りは、ひどく暖かなもので。
アリババは、自身でも気付かずに強張らせていた顔を、この時ようやく綻ばせたのだった。
END
アリババは「霧の団の頭兼末っ子」の称号を手に入れた!
オマケ漫画を読むに、こんなアットホームでもいいじゃない、と思ったのさ……
ちなみに霧の団は「カシム親衛隊」でもあるので、カシムの恋は全力で応援する所存であります。