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静寂の涯

ゴルタスのはなし。
と見せかけたゴルタス視点から見たジャミルの話みたいな…
ゴルタスの過去捏造。
そして相変わらずジャミルは組織により壊された人間説推し。

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静寂の涯

 久方ぶりに出した己の声は、ひどいものだった。
 掠れ、枯れ、聞き取りにくい。
 そもそもが声を出したこと自体が久しぶり過ぎて、自分の声が果たしてこんな響きだったのかどうかさえよく分からなかった。
 声は出せるが、今尚喉に残る傷跡は決して軽いものではない。おそらくは長時間話し続ける事は不可能だろう。
 それでも、言いたい事は言った。
 モルジアナは聡い少女だ。きっとゴルタスの伝えたい想いも汲み取ってくれるだろう。
 
 ジャミルを肩に担ぎ、音を立て崩壊していく迷宮の奥へと足を向けた。
 放心するジャミルは完全に正気を失ってしまったようで、今ここにはいない奴隷たちの名前を呼んでいた。
 彼が口にする名前は、ゴルタスが知っているものもあれば、知らないものもあった。一体どれだけの人間が、彼の下で奴隷となり犠牲になっていったのか。
 何とも言えない気持ちでいた、その時だ。
 
「あれ? モルジアナは?」
 
 呼ばれた名に、ぎくりと心臓が跳ねる。
 肩の上でジャミルが顔を上げるのが分かった。
 モルジアナはジャミルがマギと呼んだ子供や、やたら剣の腕が立つ少年と共にいるはずだ。振り返るつもりがないゴルタスには、彼らがどうしているかは分からない。
 迷宮が崩れるまで時間がないと言っていたし、もう脱出の準備は整っただろうか。
 
「モルジアナ……?」
 
 再度、ジャミルが呼んだ。
 その声音は、先ほどまでのものとは違っていた。
 奴隷をいたぶる時とも、誉める時とも違う。
 こんな声は聞いたことがない、そう考えかけた瞬間だ。
 唐突にゴルタスの脳裏に蘇ってきた記憶があった。
 
 それは、ゴルタスが喉の傷を負った時の話だ。
 ジャミルに奴隷として買われて、まだそう時間が経っていない頃だった。
 ジャミルは、その人間性はともかくとして、領主としての仕事ぶりだけを見て評価するならば有能であると言わざるを得ない。彼がチーシャンを栄えさせたのは事実である。
 だが統治する上で、少なからず人から恨みを買う事も珍しくはなかった。
 ゴルタスを含め彼の周囲にいた奴隷たちは、そんな人間が雇うなりしてきた暴漢たちからの護衛に使われたのだ。護衛と言えば些か聞こえはいいが、単なる盾も同然の扱いだ。
 
 黄牙民族特有の身体能力を持つゴルタスだったが、この喉に残る傷の際は流石に死を覚悟した。
 起きあがるどころか指一本も動かせずに、ただ傷口から血が溢れ体温が下がっていく感覚ばかりが思考を支配していた。
 これが死か、と。そう感じていたその時だ。
 奴隷たちを盾にして難を逃れたらしいジャミルが、ゴルタスの傍らまでやって来て一言「ゴルタス……お前、死ぬのか」と呟いたのだ。
 抑揚のない声には、どんな感情も宿っていなかった。
 哀しみも怒りもない。ただただ虚ろで、空っぽで、何もない。
 そんな声を聞くのは初めてだった。
 それを発したのが老成した世捨て人でも何でもなく、まだ幼さすら残す少年だという事にただ驚いた。
 
 ゴルタスがジャミルの奴隷になった時には、もう既に彼の周囲に親族はいなかった。
 彼がどんな人生を歩んできたのかなど知らなかったし、興味もなかった。
 奴隷として買われ、物のように粗雑に扱われる日々は屈辱であり悔しい。奴隷を当たり前のように虐げる彼に同情する気など微塵も起きない。
 だが、その声音は。ひび割れ、取り残され、呆然としている幼子のような響きがあった。
 心ある者ならば思わず立ち止まり、振り向かされてしまうような音だったのだ。
 
 虐げられ辛酸を舐め尽くすような毎日の中で、気付けばそんな出来事など日々の記憶の中に埋没してしまっていたけれど。
 そうだ、何故忘れていたのだろう。
 彼の声に、言葉に、感じた想いを。
 聞いてみたいと、そう思ったのだ。迷子の子供に、独りきりで呆然と立ち尽くす幼子に手を差し伸べるように。
 何があったのか。どうしてひとりなのか。
 
 忘れていた事が今更ながらに悔やまれるのは、担ぎ上げられたままのジャミルの声音が、あの頃に聞いたものと変わりなかったからだ。
 彼の中のどこかが、何かが止まったままなのだと。
 それは多分、ゴルタスが彼の奴隷になる以前よりずっと昔からなのだと。
 今更ながらに気付いた。
 ジャミルが奴隷に対し行ってきた数々の所業は決して許されるべきものではない。
 ゴルタスもまた、理不尽に振るわれた暴力や非道な行為には未だに憤りを覚える。
 だが、彼にはもっとちゃんと向き合うべきだった。それで何かが変わっても変わらなくても、そうするべきだった。
 
 喉の傷は深かったが、一命を取り留めた時。
 ジャミルがどんな顔をしていたか、ゴルタスは知らない。覚えていないのではなく、見ていなかったからだ。
 そもそもジャミルが怪我をしているゴルタスの様子を見に来たのかどうかさえ、記憶にない。
 傷を負い暫くは出せなかった声が、決して以前のように滑らかなものではないがある程度は戻っていると気付いたのはいつだっただろう。
 正確な時期までは思い出せないけれど、昨日今日の話ではない事だけは確かだ。
 その時に声をあげれば良かった。
 今更ながら、そう思う。
 
 崩れ行く迷宮は、最早ゴルタスの立っている足元さえ危うくしようとしていた。
 ひび割れが迫り、頭上からは崩れた天井が轟音を立てて落ちてくる。
 先へ進めなくなり足を止めたゴルタスは、ジャミルが黙り込んでいる事に気付いた。
 今更正気に戻ったりはしないだろうが、先刻まで機嫌良く話し続けていたものだから何があったのか気にはなる。
 
「……そうか」
 
 やがてゴルタスの耳を穿ったのは、小さな呟きだった。
 何もかもを諦めたかのような、全て知っているとでも言いたげな響き。
 結局の所、ジャミルの言葉にどんな意味が込められていたのかは分からなかった。
 それを判断するに至るまでの付き合いが、彼らの間にはなかったからだ。
 奴隷と主人である以上、距離があるのは当然であり仕方ない事であるとも言える。
 
 ジャミルが「止めて」しまっている事実は気にはなったが、彼を外へ出すべきではないという考えもまた覆す気はなかった。
 ここで彼と共に終わるのは、ゴルタスにとってはジャミルに言われるままに刃を振るった事への償いであり、向き合えなかった事への責任でもあった。
 その判断が客観的に見て正しいのかどうかは分からない。
 だが、ゴルタスにとっては最善だと思える選択だった。
 彼に言葉を向けなかったのも、ゴルタスなりのけじめだ。
 今まで沈黙を守ってきたのだから、最期までそれを貫こうと。そう決めた。
 死が、音を立てて迫って来る。
 ゴルタスは、ゆっくりと目を伏せた。
 
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