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がしり、と掴まれたのは桃ではなく、カシムの手首だった。
何してんだ、と問う間もなく、アリババはそのままカシムの手に乗っている桃に顔を寄せてきて。
そのまましゃく、と音を立てて齧っていった。
突拍子もない行動に思わず何も言えずにいるのを、アリババはチラリと見上げ、何を思ったのかもう一度、もう一口桃を齧った。
元々カシムが半分以上食べていた桃は、そこで殆ど形をなくして。
もぐもぐと口を動かしながらカシムを見たアリババは、何も言われないと見てとると残りの欠片も口中に納めてしまった。
それもやはり同様に、カシムの手の上から、だ。
傍から見ると、まるでアリババがカシムの手のひらに口づけをしているかのような光景で。
桃を持っていたカシムには、手のひらにアリババの吐息やら唇の感触やらが、それはもうしっかりきっちり伝わっていた。
「んっ」
桃は、果汁の多い果物だ。
食べていれば、その果汁が零れることはままある話で。
口の端から、ぽたりと。垂れたそれを、アリババは少し顔を顰めて追って。
「!!」
事もあろうかその舌で、落ちた果汁を舐めとったのだ。
思わず振り払いかけた腕を押しとどめたのは、アリババの右手に光る針がちらりと視界の端を掠めたからで。
ぎしりと固まったカシムに気付かないアリババは、無心に(いやおそらく本当に何も考えていないのだろうが)指に手に舌を這わせていく。
指の形をなぞるように、手のひらをくすぐるように。
息がかかる、唇が触れる、舌がなぞる。
ぴちゃり、と微かに鳴った水音は、どうあっても情事を連想させるそれでしかなくて。
カシムの指先がぴくりと震えたのと、アリババが髪を揺らしながら息を吐き離れたのは、ほぼ同じタイミングだった。
唇の端を、ぺろりと赤い舌が舐めて。
「ん、ごっそさん」
笑うアリババを見て、この小悪魔が、とカシムが思ったかどうかは……定かではない。