幸福の在処、君のとなり
アリババをバイト先まで迎えに行ったその足で、ドラッグストアに立ち寄った。
おひとり様一つまで、と明記してあるトイレットペーパーを一つ手に取り、店内を二人で歩きながら飲み物やらつまみやらを適当にカゴの中に放り込む。
「なあカシム、一人一つまでならも一個買わね?」
アリババが手にしたトイレットペーパーを揺らしながら言うが、カシムは首を振った。
「バッカお前、二個も買ったらどこ置くんだよ」
「バラして積んだら置けねぇかな」
「無理だろ」
「ああ、言ってて無理だなって俺も思った……」
二人で暮らす部屋はそう広くはない。
がくりと肩を落とすアリババの背を宥めるようにぽんと叩く。
別に今の暮らしに不自由を感じる事は取り立ててないのだが、毎日暮らしていれば何かしらの不便が出て来るのは致し方ない所で。
たとえばもう少し大きい冷蔵庫が置ければいいとか。
もう少しだけ広い湯船に浸かりたいだとか。
冬場足元がキンキンに冷える台所は何とかならないのかとか。
ぽつぽつとそんな話をしながら、一通り売り場を回ったのでレジへ向かう。
夜も遅い時間帯なのだが、近場のスーパーなどが閉店している所為か客足は結構あるようだった。
レジに並んで待つうちにふとタバコが吸いたくなる。
「なあアリババ、レジ任せていいか」
「いいけど、何」
「外でタバコ吸ってくっから」
「相変わらず中毒な、お前」
苦笑するアリババが、それでもカシムの持っていたカゴを受け取りひらひらと手を振ってくる。
アリババ自身は愛煙家ではないのだが(というか噎せてしまって吸えないというだけの話だ)、嫌煙家でもないのでカシムがタバコを吸おうとうるさく言わないので助かっている。
世の中は全体的にタバコを締め出そうとしているようだが、嗜好品なのだし身体に悪かろうが何だろうが承知の上でそれでも尚金を払って吸っているのだから放っておいてほしいものだ。
持っていた共用財布をアリババに渡し、外へ足を向ける。
「そうだ、カシム」
「あ?」
「そろそろタバコ買い置き切れるんじゃね? 買っとくか?」
「おー、頼むわ」
「了解ー」
理解ある同居人だと助かるねえ、などと考えながら愛機へ向かう。
煙をくゆらせながら、こんな日常も悪くないなと考えた。
数分後カシムの元へ片手にビニール袋、片手にトイレットペーパーを持ちながら早足でやってきたアリババが「カシムテメェカゴの底にゴム入れただろ! 先に言っとけ!」と怒鳴ったのはまた別の話である。
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