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喪失の痛みと笑顔の理由と。
憎まない、そう言い切ったアリババの心が、白龍には理解できなかった。
何も失わなかったのか? いや、そんな筈はない。
煌帝国がバルバッドに強いた仕打ちを聞けば、失わなかったものの方が少ないだろうに。
それでも彼は、憎まないと決めた、そう白龍に告げた。それも、笑顔で。
詭弁にも聞こえるそれが、しかし何一つ偽りのない本心なのだと、まっすぐに向けられる瞳を見たとき、分かってしまった。
何故、何故、何故。
喪失の痛みは、哀しみは、怨みは、身の内をいつだって狂おしく灼く。
黒い炎のようにいつだって心を支配し、ちりちりと焦がす。
先代皇帝である父を失った時から、白龍の中の炎は消えていない。
いつだって、何をしていたって、心のどこかでその痛みが渦巻いていた。
その痛みを、怨みを、悲しみを糧に、強くなろうと決めた。
何もかもを投げ打ってでも復讐を果たそうと、自身の命に誓った。
なのに。
奪われ、失い、それでも尚笑えるのは、何故なのか。
どれ程考えても、白龍には分からなかった。
シンドバッド王の言葉の真意は、どこにあるのだろう。
彼らの、アリババの下で何を学べというのだろう。
時間が足りないことへの焦燥感は、どうにも拭えない。けれど、シンドバッドが返事を保留にしている以上、動くことは出来ない。
何より。
自分と同じように失ったはずの彼が、それでも笑う理由を知りたいと、知らなければならないと、白龍はそう思い始めていた。
END