[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ここにいるよ
同じものを見れなくても一緒にいられればそれでいいのに。
震える手で、カシムの頬に触れた。
カシムは何も言わない。けれど、伸ばした指から逃れる素振りも見せなかった。
触れられるのに、すぐ傍にいるのに、どうしてだろう。
どうして、こんなにも遠い気がするんだろう。
じわりと視界が歪む。泣きたくなんてないのに、涙が零れる。
目の前にいるのに。
どうして、ひとりなんだろう。孤独なんだろう。
二人でいたって、一人でいたって、変わらない孤独が在るなら。
何故、それでも人は寄り添うんだろう。
誰かを、求めるんだろう。
分からなくて、でも手を伸ばさずにはいられなくて。
触れていても尚拭えない寂寥に、ただ涙を零すけれど。
なあ、俺は、それでも。
この手を離せないんだ。
何か、言わなきゃ。
思うのに、言葉が出てこない。
ここにいろよ。どこにも行くなよ。
それだけでいいのに。ただ、それだけなのに。
「……カシム」
震える声で名前を呼ぶだけで、精一杯だった。
俺は多分、ガキの頃からちっとも成長なんてしてなくて。
上手く言えない、出来ないことばっかりで。
なあ、でも。
お前と一緒にいたい気持ちに、嘘なんかないんだ。
告げられない言葉が、今でもここにある。
震える指が、手のひらが、ぺたりと頬に添えられた。
暖かな手だった。傷だらけになって、それでも尚。
俺は、この暖かいものが欲しかったんだろうか。
どこか穏やかな心地で、そう考えた。
アリババの緩い涙腺はすでに決壊を始めていて、涙が頬を伝っていた。
涙が滴になって落ちる様は、痛々しくも見えて。
それを拭おうと伸ばしかけた手は、けれど途中で止められた。
触れても、いいのか、と。
そう思ったら、止まってしまった。
指を握りしめて、結局触れずに終える。
涙を拭えない、泣くなよと告げることも出来ない。
それでも、離れることも選べない。
泣き濡れていても尚まっすぐな瞳から、目を逸らす。
お前は、眩しい。
まっすぐに人を、命を、信じて進んでいく姿は、俺にはどう足掻いても得られなかったもので。
霧の団に引き込んで、それでも変わらないお前に、俺がどれだけ苛立って、でも安堵していたか。
お前は、きっと知らないだろう。
名前を呼んでくる声は、触れる指先同様に震えていた。
答えてやりたかったけれど、今口を開いたら言わなくてもいいことまで言ってしまいそうで。
結局は、口を噤むしかなかった。
涙を拭って、名前を呼んで、抱き寄せて、言ってしまいたいことが、あるけれど。
言いたい気持ちと同じくらいに、言ってはいけないのだとも、気付いていた。
なあ、それでも。
俺は、おまえが。
ありがとうございました!!!>相棒、読者の方
技術さえありゃ動画作りたかったわ。