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きみといっしょに
(アラジン18歳、アリババ11歳)
「おにいさん、この辺りの人じゃないだろ? なあ、俺が観光案内してやろうか!」
周囲を見回しながら歩いていたアラジンの前に飛び出してきたのは、金色の髪をした子供だった。
背丈はアラジンの腰ほどまでしかない。棒きれのような手足で、それでもアラジンを見上げてくる瞳はきらきらと輝いて溢れんばかりの生命力に満ちている。
「そうだね、お願いしようかな」
「へへっ、毎度! なあ、どこ行きたい?」
「特に決めていないんだ」
「そうなのか? 観光なら名所も穴場も知ってるし、腹減ってるならオススメの屋台もあるけど」
「どうしようかな……ああそうだ、僕はアラジンだよ。君は?」
「俺? 俺はアリババ! よろしくな、おにいさん!」
アリババが笑う。
ただ名乗っただけだが、アリババにはそれだけでも親密さを覚える行為だったらしい。
握手を求めてだろう、手が差し出されてくる。
断る理由も思い付かず、アラジンはにこりと笑ってアリババの手を握った。
体格差の所為もあってか、アリババの手は随分と小さかった。年齢からすると些か華奢な体躯をしているアラジンの手の中に、すっぽりとその手が収まってしまうくらいに。
「つかまえた」
「へ?」
囁くように落とした言葉を、アリババは拾い損ねたらしい。
きょとんとした顔が見上げてくる。
その表情を見て、気付く。ああ、彼はまだ何も知らないただの子供なのだ、と。
運命も使命も自らの器も、今のアリババにとってはただ遠い場所に在る。
「ねえアリババくん。僕は、こことは違う時間から来たんだ」
「おにいさん……?」
静かな声で、けれど今度はちゃんと聞こえるようにアリババの目をまっすぐに見つめながら告げる。
アリババは途惑いながらも、逃げ出そうとはしない。
何も知らなくてもそれでもやっぱり、君は君だね、アリババくん。
心の内で呟いた。
「ごめんね、僕はきっと君には歓迎されないだろう。だけどね、手を差し出してくれたのは君なんだ」
握った手に少しだけ力を込める。アリババには気付かれないように、ほんの僅かだけ。
アラジンの言葉の意味を計りかねているらしいアリババは、それでも何かがおかしいと気付いたようだった。
「おにいさん、どうしたんだよ?」
アリババの眼差しに宿るのは、警戒と心配と不安とが入り混じったような色だった。
この状況下において尚人を気遣うその優しさが嬉しいような、滑稽にも感じられるような。
「僕はね、アリババくん」
握ったままの手は離さない。
ねえアリババくん。今度は、間違わないから。だから。
「君を浚いにきたんだ」
僕と、一緒に行こう。
END
(バッドエンドを迎えた世界を捨ててアリババを迎えに来たアラジン、ていう話)