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88夜派生小話「蒼と青、聞けない横顔」でアリババがカシムの未亡人と言われたので、読み返してみたら本当にそれっぽかった。
よしネタにしよう、という勢いで生まれたネタであります。派生を更に派生させてみるっていう何だろうこの自転車操業みたいな…はは…
わずかな燃料でも走れますよだってマイナーで生きてきたんだものっ!!(爆)
未亡人(ぽい)アリババとそれに惹かれる白龍、という誰得ネタ。
何がどうなってこの状況なんですか、というツッコミはしたらいけないよお嬢さん。
貴方の向こうの空は蒼く
「俺では、アリババ殿の支えになりませんか……?」
何て、情けない。そしてまたずるい聞き方だ。こんな事を言っても、こんな言葉を口にしても、優しい彼は困惑するだけだと言うのに。
思うけれど、言葉は止められなかった。
アリババの目が、驚いたように丸くなる。
「な、に言ってんだよ白龍! 俺はお前の事、頼りにしてるし、会えて良かったって思ってる!」
がし、とアリババの手が白龍の腕を掴んだ。
その指の力に、見つめてくる瞳の色に、必死な言葉に、どれ一つとして嘘はない。
真摯な様子に申し訳ないと思いながら、それ程までに心を砕いてくれる事を嬉しく思う自分もいる。
最低だと思いながら、自分だけを見てくれることに歓びを覚える。
けれど。
「代わりになりたいとは、申しません。ただ、アリババ殿の背負うものを少しでも軽く出来たら、と」
「支え、られてるよ。もう、充分に支えてもらってるし、助けてもらってる。俺は」
「それでも、アリババ殿の心に在る痛みは、消えないのでしょう」
「……っ」
酷い事を言っている。分かるのに、止められない。
溢れ流れ始めた気持ちの奔流は、自分でも堰き止められそうもなかった。
虚を突かれたように、アリババが息を呑んだ。
腕を掴んでいた手の力が緩み、するりと離された。
「忘れられない事があるのは、俺にも覚えがあります。それをも抱えて前を向く貴方を、俺は尊敬しているのです」
「……違うよ、そんな大層なことじゃない。俺はさ、白龍……忘れたくない、だけで」
黄金色の瞳が、白龍から逸らされ俯いた。
ゆらり、揺れるその色は。哀しみ、だ。
この人は、失った哀しみを、寂寥を、今でもずっと抱いている。
淋しさに揺れながらもまっすぐな心を、それでもただひたすらに優しい人を、その魂を、包んであげられたら、と思った。
彼がこれ以上の痛みを負わぬように、哀しみも苦しみも遠ざけたいと。
手を伸ばし、今度は白龍の方からアリババの手を握る。
その右手を、両手で包み込むようにして。
指先が、ぴくりと震えた。
「俺は……俺は、貴方の痛みごと、貴方を支えたい」
「……白龍、俺」
「言わないでください。良いのです、アリババ殿が応えられないことを知っていて、告げました。告げずに、いられなかったから」
重ね、握った手は暖かかった。
振り払われないその優しさが痛く、だが同時にアリババらしくてただ愛しかった。
困ったような、どこか泣きそうにも見える目が向けられている。
今この人の中にはきっと自分しかいないのだ、と。そう思うと少しだけ満たされるような気がした。
それが酷く嗜虐的な感情だと分かっていながら、止められなかった。
本当は。
心の奥底のどこかでは、自分だけを見てほしいと、そう思ってしまっている部分があるのもまた、真実だったりするから。
支えたいのも、自分に目を向けたいのも、どちらも本当で。
けれど、その寂寥を癒すのはきっと自分ではないのだとも分かっていた。
自分ではない、それはきっと他の誰にも出来ないことなのだと。
失われたものが、人が、きっといつまでもどこまでも彼の中には存在し続ける。
傍から見ればまるで呪いのように。だがきっと本人には、何人にも譲りえない大切なものとして。
それをも愛しいのだと、いつか告げたら。
告げられる日が、訪れたら。
その時の彼はどんな顔をするのだろうか。
笑いかければ、やはり困ったように笑い返したアリババの耳に光るピアスの色が、やけに目に痛かった。
根底にはやはりカシアリ、ていう。
カシムのピアスはホント…カシアリスト的にはヤバすぎます。
アリババの心の中、他の誰をも立ち入れない場所にカシムはいつまでもいるんだろうな、と。