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88夜派生小話

また書いちゃったぜ派生小話!
今回は87~88夜の間みたいな。
いやむしろ88夜の直前、みたいなカンジですが。

またもアリババと白龍。

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、聞けない横顔


 海はどこまでも果てがないかのように青く続き、心地良い風が吹きつけてくる。
 天頂を過ぎてゆっくりと傾き始めた太陽の光は穏やかで、まるでこの船が世界の中心に漂っているような気分になった。
 海も空も青いのに、その二つは決して混じり合わない。
 それは少し淋しいような、けれどだからこそどちらも美しいのかもしれないと思わせた。

 見せたかったな、と考えて、そう思ってしまった自身に気付き少し笑う。
 指先で、左耳に増えたピアスに触れた。
 無機質なリングは、当然のことだが何も答えない。
 爪の先が当たり、かつんと小さな音を立てるだけだ。

 けれど。
 会えなくて淋しいのも、忘れないのだからずっと一緒だと思う気持ちも、どちらもが胸中に在る。
 正反対のベクトルのはずの気持ちが、当たり前のように同時に存在している。
 どっちも本当の気持ちで、だから両方とも在っていいんだろう、とも。
 矛盾していて、それでもどちらもが真実。
 心は、自身でも驚くほどに静かだった。

 なあ、見えるだろ?
 海も空も広くて、世界は信じられないくらいに大きいってことが。
 触れたピアスに語りかけるように、思う。
 答えは返らない。
 それでも、アリババはふっと笑って。
 満足そうにも淋しそうにも見える顔で、目を伏せた。


 白龍が見つけた時、アリババは船の縁に肘をついて海を眺めていた。
 声をかけようとして、躊躇ったのは。垣間見えた横顔に、寂寥の色が見えたからだ。
 哀しそうとまではいかない、穏やかな表情だった。だが、そこには確かに拭い去れない淋しさが浮かんでいた。
 彼が見ているのは海ではなく、想い出なのかもしれない。
 そう思うと、容易に声をかけられなかった。

 左手が動きその指が耳のピアスに触れたのを見て、予想は確信に変わる。
 出会った時から彼がその耳につけていた耳飾り。あれはおそらく、失った人のものなのだろう。
 遺されるのは、辛い。哀しい。
 失った空虚さは、いつだって心を千千に乱す。
 なのに。

「!」

 驚いたのは、アリババが笑ったからだ。笑ってから、そっと目を伏せるのが見えた。
 哀しみを宿しながら、それでも尚大切なものを抱えているかのように。
 ここにはいない誰かへ向けてでもいるかのように。
 その表情の、そんな顔を出来る理由が分からず、白龍は途惑う。
 憎まない、と。そう言われた時と同じだった。
 踵を返しかけ、だが。

「白龍?」

 呼ばれ、足を止めざるをえなかった。
 気配に気付いたのだろう、船の縁にかけた手はそのままにアリババが白龍を振り向いていた。
 驚いているらしく少しだけ丸くなっている目には、先程見えていた寂しさなど欠片もなかった。

「どうかしたのか?」
「何を、見ているのかと」

 誰を思い出していたのですか、と。
 危うくそう言いかけた。
 それは、心の内側に土足で踏み込む問いだ。
 白龍とて、もし同じ立場なら興味本位で聞かれたくなどない事だ。
 まして、あんな表情をしていたのだ。想いを馳せていた人は、思い出は、きっと彼の中に多くの位置を占めているのだろう。
 それを不躾に問い質すのは、知り合って間もない自分が聞くにしてはあまりに無遠慮だ。
 だから、当たり障りのない事を口にした。

「海がさ、キレイだなと思って」
「海、ですか」
「うん」

 白龍が言葉を呑み込んだことに気付いたのか否か、アリババはやはり笑って。
 その手がひらりと揺れ、海原を指し示した。
 水平線は遥か彼方まで続いている。煌帝国からシンドリアまで船旅をしてきた白龍にとっては、珍しくもない景色だ。
 バルバッドの人間である彼にとっても、海は別段珍しい場所ではないように思えるのだが。
 不思議に思う白龍に、アリババは静かな声音で言った。

「海も空もキレイで、世界は広いなって。そう考えてた」

 そう言うアリババの目は、まっすぐに海を見据えている。
 白龍は、その横顔を見ていた。
 柔らかな黄金色をした、目だ。
 憎まないと言い切り、また誰かを想い馳せるような眼差しを見せて。
 その時々で宿す色は違えども、彼の目に宿る光はいつでもまっすぐだ。
 どこか、眩しいと思えるほどに。

「そういや、何か用事だったのか?」
「用という程ではないですが……少し風が強くなって来たので、様子を窺いに」
「ああ、そっか。ありがとう。俺も船旅初めてってわけじゃないから、大丈夫」

 笑いかけられる。
 白龍自身、人に向けて笑うことは造作もない。
 処世術として、人との付き合いを円滑にする手段の一つとして、笑顔を作ることは重要で容易い。
 けれど、何故だろうか。アリババもそうだが、彼と共にいるアラジンも、自分に向けてくるのはそういう取り繕った表情ではない。
 出会って間もない自分に対して、いっそ無防備なほどにまっすぐに接してくる。
 白龍の方が、途惑いを覚えるほどに。

「アリババくーん! イルカだよ、イルカが見えるよ!」
「ホントかっ? 今行く!」

 アラジンの声がした。
 位置的に、船の舳先の近くからだろうか。
 その言葉に、アリババがきらりと目を輝かせた。浮かぶ表情は、子供のようで。

「白龍も行こうぜ!」
「あ、はい」

 声の方へ足を向けるアリババに手招かれる。
 その耳を彩るピアスが、日の光を受けてきらりと光った。
 まるで、何かを語るかのように。
 白龍は一瞬それに目を細めたけれど。小さな光はすぐに見えなくなってしまった。


END


この後88夜に続く、みたいな。
…って別に派生小話は毎回恒例にはしませんよ? しませんったら。
あとでー88夜の感想はーあらためてー。
 

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