[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ネコミミ日和!
店員「いらっしゃいませ。ご注文は?」
客『アリババをください。ネコミミ付きで。』
店員「かしこまりました。2500円です。こちらでお召し上がりですか?」
客『持ち帰りでお願いします』
という診断メーカーの結果に滾って書いたカシアリ現パロ。
カシムが酔って絡んでくるから何とかしてくれ、とアリババに電話をしてきたのはハッサンだった。
決して酒癖が悪いわけではないのに珍しいこともあるもんだ、と思いながら指定された店まで迎えに行く。
店はカシムの知り合いが経営をしている小さな居酒屋で、アリババも何度か訪れたことがあった。
「あ、アリババ!」
「よーうハッサン、カシム中いんの?」
「あ、お、おう」
店の前で立っていたハッサンに片手を上げて挨拶する。
何故だか申し訳なさそうに肩を竦めているのが気にはなったが、とにかくカシムを回収する方が先だとドアを開け店の中に入った。
と、目の前に立ち塞がる人物がいてたたらを踏む。
「と、すいませ……あれ、ザイナブじゃん」
「悪いねアリババ、わざわざ来てもらってさ」
「いや、いいけど。カシムが酔うなんて珍しいな?」
「ああ、まあ……それだけじゃなくて、ね」
「へ?」
ザイナブがふっと目線を後ろにやった、と思ったと同時に腕を掴まれる。
何事かと思えば背後に立っていたハッサンに腕を押さえられていた。
状況が分からずに前と後ろを交互に見やっていると、ガシ、と頭を何かで鷲掴みにされるような感触がした。
「はっ? 何?」
「カシムの注文なんだよ……ネコミミ付きのアリババをくれ、ってさ」
「は、はい?」
「注文の品お待たせしましたー!」
「ちょ、ザイナブ、何言っ」
その投げ遣りな言い方やめてほしい、と思いながらも口に出すことは出来ないままアリババは店の奥へと背中を押されていた。
突然のことに混乱しつつ、押された所為でふらついた足を立て直そうとたん、と音をたてて踏ん張る。
転ばずに済んで安堵し顔を上げ、思わず身を引いた。
目の前の席にカシムが座っていたのだ。それだけならばまあ、驚いたりはしないのだけれど。
何というか、完全に目が据わっていたので。
「か、かしむ……?」
恐る恐る、呼ぶ。
カシムとの付き合いはそれこそ幼少の頃からで人生の半分以上を一緒に過ごしているアリババだが、こんなカシムは見た事がなかった。
着衣が乱れているわけでも机に突っ伏して寝ているわけでもない。立ち振る舞いは至って普通に椅子に座って酒を飲んでいる、それだけだ。
だがその目が、完全に酔っ払いのものだった。
カシムは酒豪と言う程ではないがそこそこ酒を嗜む。量というよりも飲み方と飲ませ方が上手いのだ。
そんなカシムだから、自身の許容量もきっちり知っている筈だった。
しかし今アリババの目の前にいるカシムは、完全に酔っている。元々醸し出す雰囲気から迫力はある方だが、アルコールで螺子が飛んでいるからか今のカシムは何というか……正直、知り合いでなければ避けて通りたいと思ってしまうような。
「よお、アリババじゃねーか!」
「あ、はい。じゃなくて! お前何言ったんだよ?!」
カシムの目がアリババを捉えた、と思ったと同時にひらりと手を振られ笑いかけられた。
妙な威圧感と圧迫感も立ち消えて、内心で息を吐きつつカシムに近付く。先刻までは情けなくも発せられる空気に呑まれて思うように動けなかったのだ。
詰め寄ると、カシムは何故か黙ったままアリババを見上げてきて。
「……何」
「いやー? 想像以上に似合うじゃねえの、お前」
「は?」
「ネコミミ」
「はあっ?!」
わけがわからない、と首を傾げつつ、そういえば店に入る前にザイナブの手で頭に何か着けられたような感触があった事を思い出した。
頭に触れようとして、しかし髪に届くより早くもふり、と柔らかい感触が手のひらに伝わってきた。
もふ、もふ、もふ。
頭の上に、三角形に近い形状のもふもふした何かが乗っている。
より正確に言えば、カチューシャにそのもふもふがくっついているらしく、ここで初めてアリババはザイナブが自分の頭に何を着けたのか理解したのだった。
「……ねこ、みみ?」
「おー、注文通りだな。じゃあ持ち帰るかー」
え? なに、俺今ネコミミ着けてんの? マジで?
両手でもふもふしつつ(その感触は心地良かった)、しかし口に出してそれを聞くのは憚られた。
肯定された時の胸中を想像してどうにもやり切れない気分に陥ったからだ。
途惑うアリババを余所に、ゆらりと立ち上がったカシムが肩に腕を回してくる。
やたら強い力で圧し掛かられ、肩を組むというより拘束されていると表現した方が近いようだった。
「ちょ、なに」
「お前んこと注文したの、俺だし。持ち帰る」
「いや意味分か……待てって、勘定! 勘定しねーと!」
そのまま歩き出そうとしたカシムの手を叩いて、慌てて言う。
いくら知り合いの経営とは言え、無銭飲食は駄目だ。それは犯罪だ。
「あー、心配いらねえよ。支払いなら終わってるから」
「マジで? それならいいけど……じゃねえよ! おいコレどういうことだよハッサン! ザイナブ!」
「だからさっき言ったろ? カシムの注文だって。まあそれ調達したのはあたしだけどさ」
「注文とか意味わかんねーし……いいからこれ、外しっ」
「よーし帰るぞアリババー」
ぐい、と引っ張られる。
何がなんだかよく分からないがカシムはやたら上機嫌だった。
そもそもこんな風にくっついてくる事自体が珍しい。これもまあ一種の絡み酒と言えないこともないか、と思いつつ。
「よしよし、ちゃーんと鳴けよー?」
喉の奥を震わせるようにカシムが笑う。
その笑い方に、声に、言葉に。何故か背筋がぞわり、と震えた。
何だろう、何かとんでもない事に足を突っ込んでしまったような。そんな気がする。
とりあえず頭にひっついてるネコミミカチューシャを取りたい。いくら夜も更けてほとんど人通りもないとは言え、これを着けたまま公道を歩くなどどんな罰ゲームかと言いたくなる。
頭に腕をやろうとするが、カシムの拘束が強くて上手くいかない。
体重をかけられているのを支えながら歩いているから、余計になのだろう。
「ちょ、カシムさん? 腕緩め……おい聞いてんのか」
「んー」
「ちょっと腕の力緩めろって言って、あああもう指絡めるな!」
腕を押しのけようとした手を取られ、器用に指を絡められてしまう。
もう片方の腕はカシムの背中を支えていて塞がっているので、一気に八方塞がりになってしまった。
ぶんぶんと手を振ってみるが、酔っ払いのくせして異様に力が強く絡みついた指は外れない。
そうこうしているうちにずるずると入口まで引きずられていて、本格的に焦り出した時だ。
「俺がいいっつーまで外すなよ、それ」
「は……?」
低い声でぼそりと、囁かれた。
そんな理不尽な命令誰が聞くか、と思いながら反論しようと間近にあるカシムの顔を見て、アリババはぎくりと背を強張らせる。
店に入った時に見た表情だった。完全に目が据わっている。
逃げ出したい心境だったが、退路を塞ぐならぬ身体を拘束されていて身動きが取れない。
「破ったら、なかす」
どっちの意味で?
言いかけた言葉は、喉の奥に張り付いて出てくることはなかった。
アリババがその後どうしたかは、本人たちしか知らない話、である。
この後多分部屋で「なあホラ、鳴いてみろよ、鳴けって、にゃーって」「う、や、いやだ」「ふーん?」っていうやり取りがあるんじゃないの!
めくるめくカシアリ。
腐れですいません。