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支配される事を恐れる男が選んだのは支配すること

さて。
何故か唐突にここで4巻ネタです。

覚えていますか?
モルジアナを一度は捕らえた奴隷商人のことを。
黄牙組は再登場するだろうと思ってますが、実は彼もそのうちまた出てくるんじゃないかな、と思ってたりします。
というか、出てほしい。
彼の人生をちゃんと補完してほしい。
そんなわけで、ファティマーの話です。

モルジアナに出会う前の話。

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支配される事を恐れる男が選んだのは支配すること


 ファティマーの主人は、ろくでもない男だった。
 自身は大した商才もないくせに、親の残した財産と出来のいい部下のおかげで小金だけは持っている、厭味ったらしい男。
 だがその男に奴隷として飼われている以上、逆らう事は出来ない。
 暴力を振るわれるのも、飯を抜かれるのも日常茶飯事で。奴隷は人じゃない、と繰り返し繰り返し叩き込まれた。
 鎖で繋がれていないだけ、道端の野良犬の方が余程ましな生活をしているとさえ感じられるほどだった。
 慢性的な暴力と畜生以下の扱いにただ唇を噛み耐えながら、ファティマーは胸の裡に少しずつ少しずつ、けれど確かに主人を恨む気持ちを溜め込んでいた。
 いつかこの屈辱的な鎖を引きちぎって逃げ出してやる、そうひっそりと決めていた。

 運命の夜、などとと言うと些か感傷的な表現だけれど。
 その後のファティマーの人生を変えたあの夜のことは、それなりに時間が経った今でも忘れてはいなかった。
 ひどく空気の冷たい、それでいて月が嫌に大きく輝いている夜だった。
 殴られていた理由はもう忘れてしまった。多分商売の交渉が上手くいかなかったとか、食べたい物が見つからなかったとか、そういうくだらない理由だったような気がする。
 ファティマーの主人は理由がなくとも暴力を振るうような輩だったから、もしかしたらその時もそうだったのかもしれない。
 とにかくその日も殴られ蹴られ、襤褸布のようになったファティマーは、一頻り鬱憤を晴らしてすっきりしたのだろう主人が背中を向けるのをぼんやりと眺めていた。
 今となっては、何故あの時そんな行動に出たのか自分でもよく分からない。
 はっきりと覚えているのは、ゆらりと立ち上がったファティマーは腰に差していた護身用の剣を(自分の身ではない、あくまで主人を護るために持たされていたものだ)抜き、主人の背中に突き立てていたという事だ。
 あれ程までに恨み憎んでいた主人だったが、剣で貫いた瞬間にファティマーが抱いていたのは、殺意でも何でもなかった。
 衝動的に、と言うのがおそらく一番近いような気がする。きっと刺した瞬間の自分は無表情だったのだろうとさえ思うほどだ。

 主人が即死だったのか、それとも事切れるまでに幾らか時間がかかったのかは分からない。
 気付いた時には、ファティマーは足元に転がり動かなくなっている主人を見下ろしていたからだ。
 背中から剣を生やしうつ伏せに倒れている男は、ひどくちっぽけに見えた。
 何故今までこんな奴に従わされていたのかと、不思議に思うほどに。
 我に返ってからの行動はひどく冷静だった。
 剣を抜き主人を仰向けに転がすと、懐に手を入れ足枷の鍵を探した。何年もファティマーを捉えていた枷の鍵は、拍子抜けするほど小さいものだった。
 足枷が僅かな金属音を立てて地面に転がった瞬間、何故涙が零れたかは今考えてもその理由がよく分からない。
 あれほど渇望していた自由が手に入ったはずなのに、胸中に広がるのは歓びでも何でもなかった。足の下の地面が抜け落ちていくかのような空虚さだけが、ただ心の内を支配していた。
 両脚から枷が消えたらやりたい事はそれこそ山ほどあった。だがそのどれ一つとして、その時のファティマーには現実感の伴うものとは思えなかったのだ。
 支配されてなどいない、いつか見返してやる、そう思い続けていたはずなのに。
 いざ自由を得たその時に訪れたのは、これからどうすればいいのか、という途方に暮れたような心地だった。 

 やがて涙が止まった後、ファティマーは主人の衣服を剥ぎ自分で着込んだ。
 それまで着ていた服はあまりにぼろぼろで、一目で奴隷だと分かるようなものだったからだ。
 そうしてから、主人の死体を人目につかない場所で地中に埋めた。今まで足に嵌められていた枷と一緒に。
 埋めたのは決して埋葬する気があったからではない。この男が死んだと分かるのは、これからの自分が生きていく上で邪魔な情報になり得ると思ったからだ。 

 主人を憎んでいたのは確かだ。
 だが殺したかったのかとまで問われれば、それはもうよく分からない。
 ただ、解放されたかった。人としての尊厳を損なわれ奪われ、渇いていくばかりの毎日から。
 日常的に振るわれる暴力に身体は慣れこそしても、痛みを感じないわけじゃない。振り上げられる拳に対する恐怖と憎悪は、ファティマーの内に降り積もり増え続け、あの夜に決壊したのだろう。
 今となっては、何となくそんな事だったのではないかと思っている。
 そうしてファティマーは、奴隷身分から解放された。 

 奴隷から解放されたファティマーが、紆余曲折あった末で奴隷商人になったのはまさに皮肉としか言いようがない。
 けれど他者から支配されずに生きていく為には、力が必要だった。それも多少の力ではなく、圧倒的なまでの。
 自分よりも弱い者を捕らえ、売り飛ばし、金を手にした。その金で新たな奴隷をまた捕らえ、売った。
 最初は、生きていくうえで金が必要だったから始めた。だがそれを何度も繰り返すうちに、そんな自分の元に擦り寄り媚を売る人間が現れ始めた。
 そうなった時にはもう、この道から逃げられないのだと悟った。
 彼らに自分が元々奴隷だったのだと知られるわけにはいかない。決して。
 もう二度と誰にも支配されたりしない。
 その為には、自分が他者を支配し続けなければ。

「分かってるわよ、餌でしょう」 

 腕に止まらせていたカラスが、ファティマーの思考を遮るように一声鳴いた。
 徹底的な支配と服従を教え込んでいる彼らの事を、ファティマーは少なからず気に入っていた。
 獣は好きだ。彼らは嘘を吐かない。
 人が怯える毒の爪も牙も、きっちりと調教し主従を覚えさせれば何より強力な武器となる。
 常人では太刀打ちも逃れる事も叶わない。その翼からも、脚からも。
 彼らの持つ圧倒的なまでの強さこそ、ファティマーが何よりも欲していたものだった。
 それだけの力を持つ獣を支配し、屈服させている。その事実が心地いい。

 明日はこの爪で、牙で、誰を狩ろうか。
 考えて、ファティマーはふっと笑った。


END
 


元ネタはついったで呟いていた、

【支配される事を恐れる男が選んだのは支配すること/ファティマー】 2012/1/17
 獣は好きだ。彼らは嘘を吐かない。
 人が怯える毒の爪も牙も、きっちりと調教し主従を覚えさせれば何より強力な武器となる。
 常人では太刀打ちも逃れる事も叶わない。その翼からも、脚からも。

です。
ここから広げ広げてここまで来ました。
何気にデザイン、キャラ、生い立ちともに好きです。
いつかまた出会えることを願いつつ。
 

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