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ここ に 2
ふっと、意識が浮上した。
欠伸をしながら体を起こすが、辺りはまだ暗く、目覚めるには些か早すぎる時間のようだった。
というか、むしろまだ宵の口だろう。
シャルルカンは、なんでこんな時間に目ぇ覚めたかなー、と首を傾げつつ、頭の後ろをがしがしと擦った。
起きたついでに水でも飲もうかと寝台から降りる。
水差しから注いだ水を飲みながら、数時間前に共に飲んでいた弟子ことアリババの事をふっと思い出した。
初心というか純情というか、女に興味がないわけではないだろうに、どうにもその手の話題への食い付きは良くなかった。
一度そういう店にでも誘ってみるかな、などとぼんやり考えていると。
「……?!」
何かは分からないけれど、空気が変わった気配がした。
将としての条件反射で、思わず構える。だがそれは、敵襲とはまた違う、異質な空気だった。
この部屋の中に、常とは違う、得体の知れない「何か」がいるような。
緊張を纏ったままじり、と足を動かした、その指先に。
何だ……?
縄のような塊が触れた。だが、感触的に縄よりかは柔らかい。
何か置いてあっただろうかと思い起こすより早く、その「何か」が突然動き、シャルルカンの足首に巻き付いた。
「っ、うおっ?」
ぐん、と引っ張られ体勢を崩したが、そこは将に選ばれるだけの実力者だけあって無様に転倒することはなく。
足を振ってその「何か」の拘束を解き、左手を床に着くとそのままくるりと回転し音もなく着地してみせた。
着地した場所、壁際に立てかけてあった剣を手に取り、鞘から抜いて構える。
だが、次の瞬間。
膝裏を掬うように払われ、シャルルカンは体勢を崩して壁にもたれかかるように尻餅をついていた。
「なっ……」
前述したが、シャルルカンが一度目に体勢を崩した後に着地した場所は壁際だった。
つまり、背後に回られることなど在り得ない位置、である。
何かの迷宮道具でも使われたのかと焦りかけ、しかしそれにしてはおかしいと思い直す。
攻撃を仕掛けて来ておきながら、相手からの殺気のようなものが全くと言っていいほど感じられないのだ。
そもそもが殺気などを放っていれば、ここまで立ち回っていて誰も駆け付けてこない筈がない。
いや、違う。殺気がない、のではなく。
気配が、ない。
何なんだ、と様子を窺っていると、ふっと鼻腔に届いた匂い。
煙はないけど、これは……葉巻?
目の前には誰もいない、否、何もいないのに。
空気が苛立ちにぴりぴりと震えているように感じられた。
見極めようと目を細めた所で、何故か。
唐突に訪れた眠気に、ぐらりと頭が揺れた。
ヤベェ、これが敵だったら死ぬぞ俺。
思うのに、ちっとも意識が保てない。必死で開けようとする瞼が落ちて行くのを、為す術もない。
「おま……なに……」
ようやく口に出せたのは、それだけで。
視界が閉ざされる刹那、シャルルカンは目の前に立つ人影らしきものを見たような気がした。
長い髪を揺らした(ように見えた)それが、意識を手放すその間際に吐き捨てるように放った言葉は。
「余計な気ィ回してんじゃねぇよ」
舌打ち混じりのそれは、やはりシャルルカンの聞いた事のない声だった。
「おはよう、アリババくん!」
「おー、おはようアラジン。今日もいい天気だなー」
食堂に向かう途中で声をかけてきたのは、アラジンだった。
連れ立って歩きながら、他愛もない話をする。
アリババがシャルルカンの豹変ぶりを話せば、アラジンはヤムライハが教えてくれた本の話をしたりして。
お互いに充実している事を感じ取り、どちらからともなく笑顔になっていると。
「だからさー! マジいるって!」
食堂の中から聞こえてきたのは、アリババの師匠であるシャルルカンの声だった。
何やら必死になって捲し立てているようだ。
二人は顔を見合わせ、首を傾げて。
ともかく腹ごしらえだ、と食堂に足を踏み入れた。
見れば、シャルルカンは横に座ったスパルトスに向けて必死で何か訴えているようだった。
まあ肝心のスパルトスはと言えば聞いているのかいないのか、優雅に黙々と食べているのだが。
何かあったのだろうか、と何となく耳を傾けていると。
「ぜってーいるんだよ! ドレッドの妖怪が!!」
ここまでの話を聞いていなくとも、とりあえずよく分からない話だという事は分かった。
昨日も飲みに付き合わされたアリババは、そういや師匠昨夜は結構飲んでたもんなあ、オマケにヤムライハさんに鉄槌喰らってるし何か幻覚でも見たのかなあ今日大丈夫なんだろうか、と考えて。
まああれだけ大声を出せているのだから平気なのだろう、と結論付けた。
長々と心配されない辺りがここ数日のシャルルカンの行動を物語っている。
「……ドレッドねえ……」
その単語を聞くと、思い出してしまうのはたった一人だったりする。
未だに、思い出すと少しだけ胸の内が痛む、面影。
一瞬唇を噛んで、けれどすぐに笑顔になると、アリババはアラジンに向き直った。
「俺たちも食おうぜ。どこ座る?」
「んー、あそこ空いてるよ、アリババくん」
「よっしゃ、行くか」
アラジンの前を歩くアリババは、気付かなかった。
アラジンの目が、アリババの少し横辺りを、ちらりと見たことに。
例え見たことに気付いたとしても、常人の目にはそこに何かがあるようには見えないのだろうけれど。
マギであり、ルフに愛されまたルフを視覚的に捉えることが出来るアラジンには、見えていた。
その姿、そのルフの流れが。
アリババを見守るように傍でざわつく、ルフたちが。
過保護だなあ、と少しだけ思ったりもしたけれど。
何だか微笑ましくも見えてしまい、アラジンは一人楽しげに、くすくすと笑ったのだった。
END
というわけで。
ここ に
こころはいつでも貴方のそばに (正式タイトル)
でしたー。
最終的にカシ→アリ落ちっていう。
怪異・ドレッドお化け(笑)はもうちょっとギャグっぽく、かつホラー映画みたいにしたかった……
んですが、そういやホラーものって避けてきてるから分かんね、とこんなんに。
アリババくんにセクハラするともれなくドレッドが報復に参ります。