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所有者は声高らかに宣言す
「俺を捕らえてでも吐かせる、ってー面だなぁ。あーヤダヤダ、怖ぇー」
ジュダルはさも愉快そうに笑いながら、目の前で杖を構えるアラジンを見やった。
アラジンの隣りではバルバッドでも見掛けた素早い動きの赤髪の女が、油断なくこちらの様子を伺っている。
二対一でも負ける気はしないが、今は本格的に争うつもりはなかった。今日の目的はこれから先の為に布石を打つ事、だ。
「アリババくんは、どこにいるんだい」
「やっぱりテメェの王候補は大事かよ?」
「違う! アリババくんは僕の友達だ、たとえ選んでなくたって助けに来た!」
「ふうーん……トモダチ、ねぇ」
生温い響きだな、そう思いながらアラジンの言葉を反芻する。
相手を信じている目だった。まっすぐに、裏切られることなどない、と。
その顔が、眼差しが、真実を知ってどう歪むか。
「じゃあよ……トモダチでも、王候補でもなくなったら、いらないよな?」
「……何の話ですか」
ジュダルの問いに答えたのは、アラジンの横に立つ赤髪の女だった。
不審そうな目は、やはりアラジンと同じようにアリババを救い出す事に対し何の疑問も抱いていないようなそれで。
これを今からぐちゃぐちゃに壊し踏みにじり粉々に出来るのかと思うと、おかしくてたまらない。
絆も、過去も、誓いも、夢も。
ほんの一つの綻びで容易く解け、千々に裂かれ、消えていくのだと。それを思い知る心地を、人はこう呼ぶのだ。
「……絶望しろよ?」
「! アラジン!」
笑いながらジュダルが告げ、右手を上げた瞬間。
ジュダルの後方から、炎が放たれた。
咄嗟に反応したのは赤髪の女だった。アラジンを抱え上げ、その場を離れる。
一度バルバッドで見ているが、その素早さは健在のようだった。ジュダルの放った氷柱から逃れる脚だ、避けられる事など想定内だ。
むしろ、これぐらいで倒れて貰っては困る。楽しくなるのは、これからなのだから。
「あれ……外れた?」
首を傾げながらジュダルの隣りに並び立ったのは、ジンの宿った剣を構えたアリババだ。
距離もタイミングも、普通ならば外れるはずないものだった。だから悔しがるというより不思議そうな表情で、手にした剣を見やったりしている。
避けられたのは自分の調子が悪かったからだと思っているのだろう。
「お前が悪いワケじゃねえよ、アイツが特別素早いんだ」
「そっか……俺、失敗したか?」
「いや? 上出来」
眉を下げるアリババの頭を、くしゃりと撫でてやる。
安心したように笑うアリババは、離れた場所に立つアラジンたちに目もくれなかった。
存在は認識しているだろうが、今のアリババにとっては知らない人間であり、それどころかジュダルに害を為す敵なのだ。
「アリババ、さん……?」
呆然とした声が、アリババを呼ぶ。
そうされてようやく、アリババは二人に目を向けた。首を傾げるその目は、知らない人間を見る色を浮かべていて。
「……誰? なんで俺の名前、知ってんの?」
「事前に調べて来たんだろ? 何せ敵サンだもんなぁ」
「ふーん……ジュダル、有名なんだな」
敵という言葉をわざと強調しながら言えば、アリババは感心したような目を向けてくる。
名前が売れてんのはお前もだけどな、とは心の中でだけ呟いて。
ジュダルはアリババの肩に手を回し、立ち尽くす二人に視線を向けた。
何が起こったか未だ分からないような顔をしている二人に、答えを提示してやる為に。
「お前の王候補もトモダチも、ここにはいねえよ。俺は拾っただけさ、何もかもなくしてるコイツをな」
「なくし、て……? アリババさん……?」
「ぜーんぶ忘れてたから、俺が拾っただけだ。野垂れ死にしなかっただけ、感謝してもらいたいぐらいだぜ?」
「……アリババくん、まさか、記憶が……?」
言葉自体は疑問系だが、おそらくは何があったかなど確信しているのだろう。
蒼白になった女とは対照的に、アラジンはどこか探るような目を向けてくる。
それが面白くない。見たいのはそんな顔じゃないのに。
望みを絶たれ、打ちひしがれ、何もかもを諦め這いつくばるのを見たいのに。
「……俺は、王候補が欲しいわけじゃねえよ。煌帝国には候補になりうる人間が、選ぶほどいるしな」
王候補を奪う為にアリババを傍に置いているわけではないのだと告げる。
事実、ジュダルはアリババを自分の王候補にするつもりはなかった。
ならば何故わざわざ手元に置いているのか。
シンドバッドにもアラジンに対しても使える手札になるから、それもある。
ジンに選ばれるだけの素質があるから興味がある、というのも理由の一端だ。
だが、それより何より。
「……そうだよ、俺が拾って、俺のもんにした。だから、お前らには返さねー」
これは自分のものだという認識があり、また本人もそれを認め受け入れているからこそ、今の関係があるのだ。
誰が何と言おうと、これは俺のだ。
たった一つ俺のものだと主張して許されるものを、むざむざ手放してなどやるつもりはない。
「お前らには、渡さねーよ」
肩に回していた手を引き、アリババを抱き寄せる。
アリババは抵抗しない。自分がジュダルのものだと、普段からそう公言しているのはむしろアリババの方だからだ。
「ジュダル……俺、ジュダルといるぞ?」
「当然だろ」
「うん」
ジュダルの言葉を聞いていたアリババが、少し不安そうに言ってくる。
間髪入れずに肯定してやれば、ひどく安心したように笑うのだ。
手放せない。手放せるわけなどない。
深みに嵌まっているのがどちらかなんて面白くもない事は、考えたくもないけれど。
「コイツは、俺のだ」
口にするたびに、想いが強くなる気がした。
誰にも渡さない。
告げて尚、アラジンの瞳が揺らがない事が、何故か無性にジュダルの苛立ちを煽るようだった。
ジュダルちゃんはある意味自分自身さえ自分のものだとは言えないので、他人なのに自分のものだと言ってくれたアリババくんにとても執着したようです。
ラブいジュダアリは…ある意味貴重なので書いてて楽しい…(笑)