114夜のヤムライハの一言で妄想した話であります。
というわけで
ネタバレ注意注意。
114夜の派生というか、115夜がこんなんだったら滾るんだぜ、ていう話。
日付的には水曜なのだが、まだ読んでいないのでセーフということにしたい所存。
つうか読んだら多分捏造甚だしくてここに出せないだろうなーと思うので、こんな時間に出しにきたっていう、ね…(現在2:42であります)(バカじゃないのか)

玻璃を踏む足は傷つくか
カシムは、ふっと意識が浮上する感覚に途惑いながら、しかし目を覚ました。
得体の知れないものが息を潜めているような気配に、眉間に皺が寄る。
ざわざわと、何かが這い回りながら少しずつ数を増やしている。
現状の把握もしっかりと出来ていないのに、何故かそれだけはハッキリと分かった。
何か異常な事が起きている、と。
「……アリババ」
呼ぶ、というよりも思わず零れたのは、誰より何より近しい彼の名だった。
そうして、思い出す。自分がどうなったのか、ここが何処なのか。
ここは、アリババの心の奥深く。
バルバッドの一件でルフを交わし合ったあの時、意図せずアリババの心の片隅に残ったルフから為る存在、それが今のカシムだ。
魂の欠片、とでも言うべきか。
霞のように一片だけ残ったルフが、カシムの意思だったのかそれともアリババの希みだったのかは分からない。
だが、カシムの意識はアリババの中に溶け合い、今のように自身の意思を持つことはないはずだった。
それがこうして浮上した、という事は。
アリババの意識が、自身を保っていられないほどに弱っているという事だ。
「何だ……これ」
呟く。
違和感の正体は、アリババの内側に蔓延り数を増やしている黒いルフだった。
黒いルフはアリババの魔力を食み、じわじわと身体のあちこちを侵食していく。
しかしアリババ自身はそれに抗おうとしているようで、白と黒のルフがあちこちでぶつかり合っていた。それはまるで、過ぎた日の光景を見せられているかのような。
「アリババ」
舌打ちを一つして、先よりも確りした声音で呼んだ。
声に対する返事はない。だが答えるように、カシムの傍ら、その足元にアリババが現れた。
幼子のように身体を丸めるその姿は、何かを抱え守ろうとしているようにも見えた。
瞳を閉ざすその表情には苦悶こそ浮いていないものの、意識を保っていられない時点で大分切迫しているのだろう。
カシムは表情を険しくし、アリババの傍らに膝を着いた。
黒いルフの勢いは止まらない。
アリババの中を蹂躙するように、黒いルフの数が増えてきていた。
どれだけ抗い交戦しても、疲弊するだけだ。黒いルフはアリババ自身の魔力を変換して生まれ出でているのだから。
どんな敵が何を仕掛けてこうなったのかは分からない。だが。
「……面白く、ねえ」
幾度となくアリババが自身と同じ位置まで落ちればいいのにと願ったとは思えないほどにすんなりと、そんな言葉が口を突いて出ていた。
不愉快なのは、アリババが黒く染まっていくことにでも、得体の知れない敵の攻撃を受けていることにでもない。
アリババ自身が選んだ事なら、きっとどんな選択であろうと苛立ったりはしない。
黒いルフに身を浸そうと、道の果てに命を落とすことになろうと。それが、アリババが選択した末での結末なら、受け容れ納得するだろう。
だが、これは。今のこの事態は、おそらく不測のものだ。
だからこそアリババは、自身の意識が消耗するほどに抗っている。
瞬間、カシムが手を伸ばしていたのは何か意図があってのことではなかった。
何かしようとも、出来るとも思わなかった。
例えば病身の人間を励まそうと手を握る、そんな何気ない感覚でアリババの手を取っていた。
しっかりしろ、とも死ぬな、とも言わず、ただその手に触れてやりたかった。
「……う」
それまで無反応だったアリババが、小さく呻く。
カシムは無言のまま、手を握る力を強めた。
黒いルフが、ざわついたような気がした。
「……?」
不審に思いながら、両手でアリババの手を包み込むようにしてみた。
祈るように、支えるように。
そうするとアリババの内側を侵食している黒いルフの動きが、目に見えて鈍った。
カシム自身は何かをしたわけではない。だが、それでも確かに何かが起きている。
心の、意思の力が、希みが、どこまで強く、どの程度通じるのか。
そんなことは分からないし、考えもしなかった。
ただ、支えたいと思い、願った。それだけだった。
「お前が……」
聞こえていないと知りながら、言葉を紡ぐ。
言わずにはいられなかった。
「お前が選んだことなら、俺は全部肯定してやるよ」
独りよがりなこの言葉さえ、彼を支える一片になればいいとそう願いながら。
時に迷い、立ち止まり、泣いても。
それでもいつか前を向く強さを持っているのだと、そう信じているからこそ。
「……生きろよ」
ぽつり、呟く。
アリババが選んだことなら、倒れることも納得すると思ったのに偽りはない。
だが、決して死を選んで欲しいわけではないのだ。
生きる事は楽なばかりではないと、カシムは知っている。底辺に近い生活を送って来たカシムにとっては、むしろ生きる上では辛い事の方が多かった。
けれど。
「生きて……笑ってろ」
お前が笑っていられるなら、それでいい、なんて。
出来の悪い恋唄のようで、笑えもしない。
それでも胸の内が穏やかな事を、認めざるをえなかった。
この手がお前に触れることが、実際にはもうなくとも。
他の誰もが届くことのない、触れられることのないものを支え、守れるのなら。
それは何て贅沢で、幸せなことだろう。
何度だって傷つけてきたこの手が、アリババを護れる日がくるなんて思いもしなかった。
黒いルフは退いたわけではなく、アリババの身を苛む危機が去ったわけではない。
だが、それでも。
傷つけるばかりで終わらなかったことに、安堵しているのも事実だった。
何に触れることもないこの手が、それでもたった一つ選ぶものがあるなら、それは。
絶賛カシアリ病発病中でありますっ!
タイトルは何やねん、というカンジですが、玻璃をガラスと捉えてもらいましてですね。
カシムは肉体がないのでガラスを踏んでも傷つくことはない、でもその存在は消えてしまったのかと言うとそうじゃないんだよ、ていう意味を…含んでいたりいなかったり…
あああ説明しなきゃダメなのってアカンやん!!
でもこの話はタイトルから先に出来てぶわーっと出てきたので変えたくなかったんだ…
ああ本誌楽しみ…
(115夜読了追記。)
………!!!!!
あながち 大外れでも なかったんだ ぜ。
そしてやはりこの話は、114夜の派生というか裏話なカンジかなー。
カシムマジカシム。
カシアリに…太刀打ちできる気が、しないよ…
PR