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恋、未満。【ゆるされた位置】

相変わらず132、133夜ネタバレありの捏造オル→アリです。

まさかの第三段です。
このシリーズを書く時は少女漫画を読んでから書くようにしてます。
目指すテーマが「青い春」だからです。
じりじりと、もだもだと、きらきらが感じて頂ければ嬉しいなあ、と思いつつ。





恋、未満。 【ゆるされた位置】


「頼みがあるんだ」 

 オルバの顔を見るなりそう言ったアリババから手渡されたのは、鋏と櫛、だった。
 その二つから連想される行為は、一つしかない。だがアリババに「それ」を頼まれるほどに近しい関係であるかと言えば、否であるとオルバ自身は思っている。
 困惑しながらもつい受け取ってしまった二つを見下ろしていると、アリババが言葉を続けた。

「髪、切ってくんねえ?」
「……なんで」
「伸びたから」 
 予想通りの請いに理由を尋ねるが、オルバの欲しかったものとは違う答えが返された。
 オルバが問うたのは何故自分に頼むのか、という意味であり、髪を切る理由を尋ねたわけではなかったのに。
 呆れつつ目線を上げると、アリババは襟足の辺りの髪を指で摘まみ示してきた。

「ほら、この辺さ、伸びてるだろ?」

 言葉通り、確かにアリババの髪は以前出会った時に比べれば全体的に伸びている。
 前髪や耳の辺りはそうでもないが、後ろは僅かではあるが括れそうな程だった。

「あのさあ……何で、俺?」
「だってお前、髪切るの上手いんだろ」
「そんな話、どっから」
「弟たちが言ってたぞー。だから俺もホラ、その恩恵に与ろうかと思ってさ」 

 いつの間にそんな話を、と思いつつも弟妹たちの髪を切っているのは事実なので否定も出来ない。
 だからと言って困惑は拭い去れなかった。
 オルバとアリババの関係は、友好的なものではあるが決して親しいものとまでは言えない。アクティアの港での僅かな邂逅と、その後幾度か送られてくる手紙だけでは近しいと言える程までの距離が築けていないのが現状だった。
 罪人として裁かれる所だった自分たちを救ってくれたアリババは恩人である。身柄という意味でも勿論だが、何よりも精神的な意味合いで救われたというのはとても大きかった。
 だから感謝をしているのは本当だし、アリババの力になりたいと思っているのも事実だ。 

 だが、こうもまっすぐに信用されているという態度を見せられると途惑いが先に立つ。
 たかだが鋏とは言え、刃物は刃物だ。
 それも切ってほしい箇所は背中側なのだというのだから、アリババの危機管理能力を疑ってしまう。
 さして親しくもない相手が刃物を持って背後に立つのを許す、なんて。

「……やっぱり、駄目か?」

 何と返すべきかと考えていると、アリババが眉を下げて寂しそうな顔をしながら言った。
 アリババは年の割には童顔だ。
 だからなのか、そんな風にどこか弱そうな表情をしていると必要以上に幼く見える。
 情けない顔するなよ、俺たちを拾ってくれた時みたいにしゃんとしてろよ、じゃなきゃ。
 そうでなければ、勘違いしてしまう。
 ほんの少し手を伸ばせば、届く場所にいるんだと。
 そんな都合のいい、思い違いを。勘違いを。

「……分かった。やるけど、どんな出来でも文句言うなよ」
「言わないって! ありがとな、オルバ」 

 渋々ながらも頷けば、アリババはひどく嬉しそうに笑って。
 無防備な表情に、知らず鼓動が跳ねた。
 笑顔を向けられ、頼まれごとをされるぐらいには、近い距離にいるのだと。
 背後に立たれるのを、髪に触れられるのを許されるくらいの場所には、踏み込んでもいいのだと。
 そう自覚すると、胸の真ん中辺りが暖かくなるような気がした。

 だが同時に思う。アリババは社交的な性格だ。
 友人もきっとオルバが知るよりずっと多いのだろうし、その中にはもっと上手く会話運びが出来る奴も大勢いるのだろう。
 アリババは、オルバの知らない場所にもちゃんと世界を、居場所を築いている。
 どうしてだか、それがあまり面白くない。

「オルバ? どうかしたか?」
「ここじゃ、掃除面倒だから。外、行こう」
「ん、分かった」

 軽く腕を引いて促すと、アリババは当たり前のようにオルバの隣りに並ぶ。
 何気なくその横顔を見上げた。
 本人が言うように確かに以前よりも髪が伸びているようだったが、オルバなどから見ればまだまだ短い方だ。
 歩く振動で、毛先がふわふわと揺れている。
 明るい色の髪は、触れて確かめたわけではないけれどおそらくはオルバよりも毛の質が細く柔らかいのだろう。
 背中にゆったりと伸ばせば、きっと光を集めたかのように美しいに違いないのに。

「髪……」
「ん?」
「あんたは髪、伸ばさねえのか」
「あー……手入れとか、面倒でさ」

 前髪をちょいと摘まみ上げながら、アリババは苦笑した。
 勿体ない。
 アリババの言葉を聞いてそう思う。
 だから、つい口走ってしまった。

「伸ばすなら、俺が毎日梳いてやるのに」 

 言葉が口から零れてから、何言ってるんだ俺、と自覚し血の気が引いた。
 大して親しいとは言えない間柄なのに何を、と。
 だがオルバの狼狽になど気付かなかったらしいアリババは、楽しげに笑った。

「ホントか~? じゃあ伸ばしてみてもいいかもなー」

 アリババはどうやら冗談だと思ったらしい。
 それに安堵しながらも、冗談で終わらせてしまうのはなんだか寂しいような気もした。
 少しだけ、想像してみる。
 陽の光のような暖かな色をしたアリババの髪が、長く伸ばされている様を。
 それを、毎朝毎夜手入れする自分を。

 ……このひとに、触れられたら。
 それを、赦されるというなら。
 俺は少しだけ、特別な人間になったみたいな、そんな気がするんじゃないかって。
 このひとに、少しでもいいから触れてみたいって。
 そんな風に思う気持ちが在るのは、何だろう。
 自身でもよく分からない心情は、けれど決して不快なものではなかった。

「あんたの髪は、優しい色してるから。伸ばしたら、きっと……綺麗だと、思う」 

 胸の奥底から湧き上がってきた気持ちのままに、勇気を振り絞って言葉を紡ぐ。
 元が饒舌な性質ではないから、決して上手く言えたとは思えない。だが、素直に心のままを口にした。
 笑われても流されても、構わなかった。
 本音を口にするということ自体が、オルバにとっては意味のある行為だったのだ。 

 心臓が音を立てている。
 早足でこの場を立ち去ってしまいたいのを堪えながら、アリババの様子を窺う。
 アリババは、虚を突かれたかのように目を丸くしていた。
 あ、失敗したかな、とオルバが思ったその瞬間。

「ちょっと照れるな、そう言われると。でも、ありがとな。……うん、嬉しいよ」

 言葉通り照れたようにはにかみながら、アリババがへらりと笑った。
 どこか気の抜けたような表情だったが、悪い気はしない。
 このひとの笑顔が、すきだ。
 何の衒いもなくそう思った。
 もっと近くで、もっと長く、その表情を見ていられたらいいのに、と。

「けど今は……切ってくれよ?」
「分かってるよ。とりあえずどっか座れるとこじゃねーと」
「色々落ち着いたら、伸ばしてみてもいいかもなー」
「……そん時は、さっき言ったの本当にしてやるよ」
「おー、頼むな!」

 笑うアリババは、本気になどしていないのだろう。
 そもそも彼が本当に髪を伸ばすのかどうかも、まだ分からない。むしろ現状を見るに短い方が好きなようだし、そんな未来などやって来ないと考える方が現実的だ。
 だが、何故だろう。
 自分でもどうしてか分からないのに、もしかしたらいつかやって来るかもしれない「その日」を待ってみたいと思っている。
 その日が訪れたら、今日の約束を盾にしてアリババの髪に触れる権利を貰ってやるのだと。
 まるで現実味などないのに、幼い子供のごっこ遊びのように考えてしまっている。
 しかもそれが悪くない気分だというのだから、一体自分はどうしてしまったというのだろう。

 自分で自分の感情が理解出来なくなるなんて、初めてだった。
 なのに、悪い気はしない。
 見知らぬ感情を追求するのは、後回しにして。
 今はアリババの髪に堂々と触れられる権利を心ゆくまで堪能させて貰うことにした。


【オマケ】

「前髪切るから、いいっつーまで目開けるなよな」
「ん、分かった」

 後ろや横は大体切り終えて、後は前髪を残すだけだった。
 アリババの髪はやはりオルバの物に比べれば細く柔らかい。梳きながら、何度やっぱり伸ばすべきだと進言しようと思ったことか。
 ……決して自分が触れる権利を得たいが為ではない。多分。

 お互いに無言のまま、鋏を動かす音だけが響く。
 弟妹たちの髪を切るのは慣れてはいるが、アリババ相手となると勝手が違う。いつも以上に慎重になりながら、少しずつ鋏を入れていく。
 毛先を切り、少し体を離して全体の様子を見る。
 もう少し短くてもいいだろうか、特に前髪は目にかかると邪魔になるだろうし、などと考えながらすいと顔を近づけて。
 瞬間、唐突に。それまでは意識していなかった近さに、心臓がどきりと音を立てた。

 アリババはオルバに言われた通り、目を伏せている。
 先日何故かアリババがオルバたちの元に泊まりに来た時にも、寝顔は見ているのだけれど。明るい場所でこうも無防備な表情を晒されると、何だか腹の奥がむず痒いような気になる。
 閉ざされた瞼を縁取る睫毛が間近で見ると驚くほどに長いのだと知っているのは、一体どれくらいいるんだろう。髪の色と同じ金色は、陽光を受けて透き通るようにも見えた。
 伏せた瞼の下にある眼は、髪よりも少しだけ色味が強い。太陽の光を濃縮したようなその色がオルバの胸中を暖かくしてくれている事を、きっとアリババは知らないのだろう。
 その瞳が、眼差しが、見据えているのはどこなのか。
 彼が力を求める理由を、目指す先を、オルバは知らない。
 もし聞いたのなら、答えてくれるだろうか。
 もし、俺が。

「……オルバ?」
「長さ、見てた。前髪、もう少し切った方がいいか?」

 動きがない事を不自然に思ったのだろう、アリババが恐る恐ると言った体でオルバを呼んでくる。
 考えに没頭しかけていたオルバの口は、しかしそんな心中を悟られないようにとごく自然な調子で言葉を返していた。自分の事ながら、器用な真似が出来るもんだなと驚く。跳ね上がった心拍数は、その実少しも落ち着いてなどいないのだけれど。
 オルバの前では、目を開けたアリババが前髪を摘みながら長さの具合を確かめていた。

「これでいいような気もするけど……すぐ伸びっかな? どう思う?」
「え。あんたが気になるって言うなら、切るけど」
「うーん……切ってもおかしくねえかな?」
「……俺の腕、信用してんだろ」 

揶揄するように言うと、アリババもまたにやりと笑って。

「言うじゃねーの。じゃ、もう少しよろしく」 

 続きやって、と言わんばかりに目を伏せた。
 オルバはその髪に再度鋏を入れながら、胸の奥の方が暖かいような気がすることに気付く。
 まだ、この気持ちの名前は分からなくていい。
 このひとの時間を、少しでも長く独占していられるのが嬉しい。今は、それだけで充分だ。
 そんな風に考えながら、アリババの頬に落ちた髪を指先でそっと払う。
 暖かな感触に、オルバは自身でも気付かぬうちにその口元に笑みを浮かべていた。


 

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