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カシム追悼3・餞と約束

昨日より 更にギリギリって どういうことなの …?
無駄に長いです追悼企画3話目。
アリババくんと霧の団。




カシム追悼3・餞と約束


 そういえば、霧の団アジトで使っていた部屋を片付けておいた方がいいんじゃないだろうか、と。
 そう思い至ったのは、バルバッド出立を明後日に控えた日の夕方だった。
 私室とは言え、あまり私物らしい私物も置いていないのだけれど。
 だが次に使う誰かの事を考えると、片付けてある方がいいに決まっている。
 何故忘れていたのだろう。いや違う、きっと忘れていたかったのだ。
 あの場所には、カシムとの思い出が記憶が色濃く残っている。
 忘れたくない、と思っている反面、思い出に真正面から向き合うことには躊躇う。
 矛盾している自分を馬鹿みたいだと思った。加えてそんな自分に苛立ちを覚えるが、ともかく今は考えるよりも行動だとアジトへ足を向けることにした。



 街では、あちこちで煌帝国の兵士を目にした。
 軍事侵略をしに来たわけではない、との言は本当らしく、兵士は民に危害を加えるようなことはなかった。
 だが、他国の兵が当たり前のように街にいるというだけで十分異様な光景だ。
 加えて煌帝国に対するバルバッドの立場もあってか、兵は高圧的だった。
 民たちは兵を前にすると委縮したり顔を強張らせたりと、軍事力を使われたわけではないけれど侵略されたも同然な光景を何度も見た。
 それらを目にすると、どうにもやり切れない。
 アリババはなるべく兵も人もいない道を選び歩きながら(幸いにも兵は裏道にはおらず、アリババにとって庭も同然のバルバッドを歩き回るのに苦労は皆無だった)、アジトへ向かう。

 程なく辿り着いたアジトは、そう日を置いたわけでもない筈なのにやたらと久しぶりに目にするような気がした。
 日数がというより、起こった出来事が多すぎてそう感じるのだろう。
 誰もいないのだろうか、周囲はしんと静まり返っている。
 アリババは少し辺りを見回して、やがて意を決したように建物に足を向けた。

「……アリババ?」

 声を掛けられたのは、中に足を踏み入れてすぐのことだ。
 入口からすぐの場所は広くスペースが取られていて、そこに何人かが屯出来るようになっている。
 そこには、いつも幾人かが適当に集まっているのが常だった。
 今も、また。
 座っている数人は、見た事のある顔ぶれだった。アリババが霧の団に入った頃からずっといる、いわば初期面子だ。
 アリババも彼らと飲んだり食べたりした事がある。

「来るの、遅くなってごめん、皆」

 頭を下げる。
 本来ならば、すぐにでもここに足を向けるべきだったのだ。
 アリババは霧の団で「頭領」だったのだから。
 自分のことで、自分の哀しみのことで精一杯だった、なんて言い訳にもならない。
 情けなくて、それ以上の言葉は出てこない。
 責められるのも詰られるのも、罵声を浴びせられる覚悟もあった。
 けれど。

「お前、怪我平気なのかよ?」
「あ、ああ……まだ治ってはいねーけど」
「つーか抜け出してきて平気だったのか? 街、煌帝国の奴らがウロウロしてんだろ」
「……うん。俺、さ。バルバッド、出ることになって」

 逃げるのかと、そう言われても思われても仕方ないと思う。
 バルバッドは今、混乱の最中だ。王は不在、政治も経済も不安定な上に、他国が入り込んでいる。
 これからこの国がどうなるのか、今が正念場であり岐路であると分かっているのに、王子としてもバルバッドに生を受けた者としても何一つ出来る事がない。
 そのままに国を出るなんて、それで本当にいいのか、と。

 かと言って、今回の件で目を付けられたかもしれないとまで聞かされては、アラジンやモルジアナの身の安全を考えるとこのままバルバッドに留まることが得策ではないと理解出来る。
 未だ心中は複雑ではあるし納得出来ていないこともあるが、それが分からない程に冷静さを欠いているわけではなかった。
 たった三人、それも未熟な自分たちだけでは、出来ることなどたかが知れている。匿ってくれるというシンドバッドの申し出は、行く宛てのない自分たちにとってはありがたいものだった。
 それでも、アリババの心は揺れていた。
 何も出来ることがなくても、この土地はアリババにとって特別だから。

「そっかー。でもまあ、落ち着いたら戻ってくる事もあんだろ?」
「えっ……」
「バーカ、落ち着くったってそんなに簡単に行くもんかよ。なあ?」
「……うん」
「あれだろ? シンドバッドのとこなんだろ。そんじゃまあ、一応は安心か」
「う、うん……?」

 思わず首を傾げてしまったのは、彼らがあまりにも普通だったからだ。
 罵声の一つも覚悟していただけに、その態度と反応に思わず拍子抜けしてしまう。
 口調も言葉も、まるでいつも通りだ。何もなかったのではないかと、錯覚してしまうほどに。
 アリババの途惑いが分かったのだろう、男たちは一度互いに顔を見合わせて。
 それから一人が、アリババを手招いた。

「なあアリババ、一杯だけやろうぜ」
「え……」
「怪我に触るとマズイから、一杯だけな。餞だよ、死んでった奴らへのな」

 見れば、彼らの前の卓には酒が置かれていた。集まっていたのは、それが理由なのだろうか。
 アリババは静かに頷き、空いている場所に座る。
 渡された杯、揺らぐその中を暫し見つめて。
 静かに、飲み干した。
 喉の奥へ落ちていく液体は、餞というにはどこか甘く。
 空になった杯を何となく見下ろしていると、隣りから伸びてきた腕がそれをひょいと取り上げた。

「俺さ、お前が来てすぐくらいにカシムに言ったことあんだよ。アリババの剣は凄いよな、って。そしたら何て答えたと思う?」
「え……さあ」
「少しくらい考えろよ。まあいいか。そしたらさ、剣じゃなくてアイツが凄ぇんだよ、って。俺の兄弟だからな、だってさ」
「……カシムが?」
「おう」
「あ、俺それ聞いてた。言った後に絶対言うなーってな!」
「今言ってるじゃん。ダメじゃん」

 呆れたような声。笑う声。
 いつも通りのそれなのに、アリババの隣りにはカシムがいない。足りない。
 思った瞬間、抑えられなかった。
 あ、と思う間もなく溢れた涙が頬を伝っていた。

「ごめん……ッ、俺っ、助け、られなくっ……」
「アリババ……俺たち、誰もお前のこと恨んだり責めたりしてねえよ。あの日の奇跡は、さ。きっと、あの場所にいた誰もが忘れたりしない。勿論、いい意味でな」

 カシムは笑ってたんだろ、と問われ。
 思い出す。マリアムと手を繋いでいた、その姿を。笑顔を。
 そうだ、笑っていた。
 喪失の痛みが少しだけ救われているのは、あの笑顔が在ったからだ。
 忘れられないからだ。

 頷くと、やっぱりな、と納得したように返された。
 彼らもきっと、それぞれに大切な人を見たのだろう。
 その笑顔を、面影を。
 思い出しているのか、皆一様に満たされたような笑顔を浮かべている。
 彼らの表情を見ていると、自分だけが泣いていることが恥ずかしく思えて。
 手で乱暴に涙を拭っていると、ぽんと頭を軽く叩かれた。

「カシムは、お前といるんだろうな。それ、きっとアイツ笑ってんじゃねえかな」

 示されたのは、開けてそう間もないピアスの事だ。
 場所が場所だからか、今でも時折疼くように痛むことがある。段々とその感覚も周期を置くようになっているから、きっとそう遠くない日に痛まなくなるのだろう。

「なあ。いつか、さ。いつでもいいから、戻って来いよ?」
「……いいのかな、俺」
「悪いことなんかあるわけねぇさ。バルバッドが、お前の故郷なんだろ。兄弟!」

 兄弟、と。
 あの夜にシンドバッドに向けて叫んだ言葉を、そのまま返された。
 血の繋がりなどなくても、それでも兄弟だと呼んでくれるのか。
 俺はバルバッドを出るのに、それでも。
 胸の奥が熱くて、涙が止まらない。
 元々緩い涙腺がここ何日かは栓をなくしてしまったかのようだった。些細なことでも溢れる涙が、こんな言葉を貰ってしまっては止められるはずもなく。

「あーあ、泣ーかしたー」
「俺か?! いやいやいや、だって今のは語っておくトコだろ? 美しい思い出だろ?」
「っふ……ごめ、ありがと……俺、絶対いつか、戻ってくる、から」

 泣きながら、それでも出来る範囲で笑ってみせる。
 無様な顔してるんだろうな、とは思ったけれど、泣き顔を最後に別れることだけはしたくなかった。

「あーっ!? アリババじゃねえか! お前大丈夫なのかよ!」
「……ハッサン」

 声に驚き振り向くと、ハッサンが立っていた。
 どこかに行っていたのか、何やら荷を小脇に抱えている。
 その後ろから入ってきたのは、ザイナブだ。

「アリババ? ……ってアンタたち、何泣かせてんだい!」
「ザイナブ、違う、これは俺が勝手に」
「しかも酒とか! 怪我治るまでは禁酒しろって言ったのに!!」
「いや一杯だけだし! 俺たちもアリババも!」

 女だてらに幹部を務めてきたザイナブには、そこらの男連中では頭が上がらない。
 怒られて小さくなっている彼らを見ながら(何故か無関係のはずのハッサンまで背を丸めているのは条件反射だろうか)、アリババはふっと笑う。
 バルバッドの状況は決して楽天的には考えられない。
 けれど、彼らを見ていると何故だろうか根拠もなく大丈夫な気がしてくるから不思議だ。

 そうしてここに、カシムがいないことが少しだけ淋しくて。
 アリババは寂寥を拭うかのように、涙を拭った。

fimg_1303312703.png



END


霧の団はアットホーム推奨!!
ちょっと明るめの話を入れたかったんだ……
いい加減神経もたなくなりそうだったんで。
まあ、そしたら会話が楽しすぎてね……
アリババくんは末っ子みたいに扱われてるといいよ!!!
 

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