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蒼穹に落とされた自由は涙を零すか・4

バルバッドを離れた後のアリババがチーシャンに辿り着く前に奴隷商人に捕まって売り飛ばされて小金持ってるおっさんとかの愛人状態になって、逃げたくても逃げられないままある時バルバッドに行く事になるけどその頃には何もかもどうでも良くなってる話。

のラスト!
まさか4本になるとは思わず…こんな長くする予定じゃ…

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蒼穹に落とされた自由はを零すか 

 男はまず最初に、アリババの足枷を取り払い、代わりに首輪を用意した。
 耳障りな鎖の音は足元から消えたが、首に填められた首輪と、そこから伸びる鎖はまるで犬にでもなったかのようでひどく惨めな気持ちになった。
 足枷に使われていた鎖よりも上質な金属なのだろう、男がアリババの首輪に繋がる鎖を指先で満足そうに弄ぶたび、しゃらしゃらと細い音を立てた。

「お前に無粋な足枷は似合わないだろう? 感謝するんだな、この首輪は特注品だぞ」

 犬のように媚び諂えばこの男は満足するのだろうか。
 考えて、奴隷という立場の己は犬よりも下なのかもしれないと、どこか他人事のように思った。
 競りにかけられた時から、アリババの心はもうずっと虚ろだった。
 何もかもが麻痺してしまったかのようで、遠い。
 そんな風にして、アリババの奴隷としての生活は始まったのだ。

 ◆

 どん、と鈍い音がした。
 突き飛ばされたカシムは、多少よろめきはしたものの倒れることはなかった。だが不意を突かれ、アリババの肩を掴んでいた手が離れてしまう。
 二人の間に一歩分、距離が出来た。そのほんの僅かな隙間が、何故かひどく大きなものに感じられる。
 アリババの方もカシムに敵意があったわけではないのだろう。その手に込められた力は、ただ最低限の距離を取りたいとでも言う程しかなかった。
 そうしてカシムは一拍置いてから、拒否を、されたのだと遅まきながらに気づく。
 アリババを見ると、カシムを突き放した時の体勢そのままなのだろう、腕を伸ばしたまま俯き気味に突っ立っていた。
 その肩が、揺れている。

「……アリババ?」

 呼ぶ声は、カシム自身は気付いてはいなかったけれど、困惑に揺れていた。
 俯いたままのアリババが、ふるりと首を振る。
 長く伸ばされた金の髪がその動きに合わせて柔らかそうに揺れた。

「そんな事、出来るわけ、ないだろ……」

 途切れ途切れの言葉は、喉の奥からようやく絞り出した、と言わんばかりに震え低いものだった。
 見れば、声だけではなくアリババの身体もまたカタカタと震えている。何かに怯え、必死に耐えているかのように。

「……出来るさ、簡単なことだ」
「出来ないよ」
「っ、アリババ!」
「出来ないつってんだろ! もう放っておいてくれよ! なんで分かんねえんだよ?!」 

 悲鳴のような声で叫んだアリババが顔を上げる。
 その頬に伝う涙に、カシムは驚き肩を強張らせた。
 驚いたのはアリババが泣いていたことに、ではない。スラムで暮らしていた頃のアリババは負けん気は強かったけれど同時に泣き虫でもあって、泣き顔なんてそれこそ数え切れない程に見ていた。
 カシムの胸の内を冷たくさせたのは、アリババの眼差しが今まで見た事がないほどに凍てついたものだったからだ。
 絶望でも憎しみでもない、心そのものが凍り付いてしまってでもいるかのような。
 アリババを支配するのは諦念だと、そう思っていた。だが誤りだったことに気付かされる。
 諦めも勿論あるのだろう。だが、それ以上に。

「俺はもう……やめたんだよ。期待なんてするから、傷つくんだ。何もしなきゃ、絶望することだってない」

 アリババは感情を、心を、閉ざすことで自身を守り成り立たせているのだろう。
 喜びも怒りも希望も絶望も、下手に抱き感情を揺さぶるから痛い思いをするのだと。それならいっそ、初めから何にも心を揺らさなければ。
 言われ求められることに忠実なだけの人形のように生きていれば、必要以上に傷つくこともない。
 そう判断し、生きているのだと。

 気付いた事実に愕然とする。
 どこか儚くも見えた、曖昧な表情の理由。
 壁を隔てて接しているかのような、距離感。
 再会した当初から覚えていた違和感はこれか、と思い至り、少なからずショックを受けていた。
 カシムの知るアリババは、どこか光の象徴のようなものだった。
 時に反吐を吐きそうな程の甘ったるさを抱えて、けれど決して真っ当な道から足を踏み外そうとはしないような。

「お前だってさあ……分かってんだろ」
「……何を」
「今の俺とお前が、違うんだってことぐらい」

 はらはらと涙を雫しながら、アリババは暗に自身の立場を示すかのように首輪を指先でなぞった。
 爪が、首輪の表面を引っかく。その様はまるで逃れたいと嘆いているようにも見えた。

「……違う……?」
「そうだよ。俺はもう、俺のものでさえない。俺は、お前の隣には立てないんだ」

 だから一緒には行けないよ、と。
 手の甲で涙を拭いながら、アリババはふっと笑う。自嘲混じりの表情は痛々しく、だがカシムは言葉を返せなかった。
 アリババが何気なく口にした言葉が、胸の真ん中を射抜いたような気がした。
 俺とお前は、違う。
 そう感じていたのは、ずっと思ってきたのは、お前じゃなくて俺の方だったはずなのに。
 今だってそれは、変わっていないのに。
 そうだ、俺とお前は違う。
 ずっと思っていた事実のはずなのに、いざアリババの口から告げられるとどうしようもない程の焦燥感に苛まれた。

 カシムの知るアリババは、言わば「持てる者」の位置にいるはずだった。
 スラムで生まれ育ったにも関わらず至極真っ当に育ち、優しい母親がいて、更には王族の血が流れてもいて。
 光の当たる場所で、頂点に近い上の世界で、何不自由なく暮らしているのだと、そう思っていた。
 同じような環境で生まれ育ったはずのアリババの清廉さが、憎かった。泥の底を這いずるような暮らしをしていて尚、まっすぐに生きているその姿は眩しく、同時にどう足掻いてもそう生きられない自身を思い知らされて辛くもあった。
 その腕を振り払った時も、裏切った時も。
 カシムは心のどこかで期待にも似た気持ちを抱いていた。
 絶望したアリババが、闇に染まることを。堕ちてくることを。
 運命に「選ばれた」アリババが絶望に呑まれるなら、その時は。

「どうして、会っちまったんだろうな」

 カシムの思考を遮ったのは、アリババの静かな言葉だった。
 拭っても尚止まらなかったらしく、頬を伝った涙がぽたぽたと地面に落ちていた。

「俺は……今の俺のこと、見られたくなんてなかったよ」 

 言った、瞬間。
 それまでどこか無表情にも近かったアリババの顔が、くしゃりと歪んだ。悲しそうに、辛そうに、痛そうに。
 幼い頃の面影を残す表情だった。
 氷の下には、ちゃんとカシムの知るアリババがいるのだと、まだその心は死んでいないのだと、そう思わせるような。
 その事実にひどく安堵している自身に気付くことなく、思わずアリババに手を伸ばしかけたカシムだったのだが。
 上げかけた指がアリババに触れることは、なかった。

「……本当は、会いたくなんてなかった」

 紡がれたのは、ハッキリとした拒絶の言葉だったからだ。
 涙に濡れた瞳は、それでもまっすぐにカシムを見据えている。会いたくなかった、という言葉が本気である事を示すかのようだった。
 アリババの本質は変わっていない。分かっているからこそ、その拒絶を無視出来ない。

「お前の知ってるアリババは、死んだよ。俺はただの奴隷だから。だから……」 

 アリババの目が、伏せられる。
 何かに耐えるように、或いは決意するように。

「さよなら」 

 一拍置いた後、閉じていた瞼を持ち上げたアリババが告げたのは。
 まぎれもない決別の言葉、だった。
 お前が絶望に呑まれて堕ちたら、その時は。
 ……俺は、どうする気だったんだろう。思い出せない。


END



後味が…っていう話になってしまってますが。
この後はこのまま別れてしまっていても、カシムが無理矢理アリババを連れ去っても、この時はアリババを見送るけどやっぱり納得できなかったカシムがアリババを浚いに行くのでも、どんな展開でもありだと思ってます。お好きに想像していただければ、と。

カシムは自分がアリババに対して「俺とお前は違う」って思ってるし実際告げてもいるんだけど、もし実際アリババが堕ちて同じように告げたとしたらそれはそれで納得しないんじゃないかなーと思って書いた話なのでした。
アリババに理想を見ちゃってるわけだもんなー。
あとはアリババは相手を憎むぐらいなら現状を受け入れちゃうんだろうなと思うので、またも曲解してこんなんていう。ていう…
とりあえず私はそろそろ本気でカシムに殴られる準備をした方がいいなあとは思っておりますとも。

お付き合い頂きありがとうございました!!
 

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